世界が北海道の地元コンテンツを求めている 札幌テレビ放送が独自に開拓した世界への道
STVが、海外展開を本格化させたのは7年前。東京支社で編成業務のかたわら放送外収入を研究していた私は、海外に伸びしろがあると思いました。STVにはアニメやドラマはありませんが、「どさんこワイド」を中心としたローカル番組が多数あり、旅コーナーならいくらでもあります。旅番組なら、海外へ売れるのではないか。
上司に相談すると、「よし、やってみろ。だが、もちろんキー局ほどの予算と人手はない。なるべく片手間でなんとかしろ!」とのこと。そう聞いて、私はがぜんやる気が起きました。なんだ、これまでやってきた仕事と同じ「Do it yourself」じゃないか。自分でMP3レコーダーを回し、自らスタジオに入ってディレクター兼しゃべり手までこなしたラジオ制作時代を思い出しました。予算がなくてENGカメラを発注できず、VX1000を持って街角を走り回ったテレビ制作時代がよみがえりました。
海外への販売のイロハは、同じローカル局で海外展開に経験豊富なKBS京都さんに押しかけ弟子入りして教わりました。相手が台湾でもタイでも、番組バイヤーは英語が話せるので、英語版の番組PRチラシとサンプル映像があれば商談ができるとのこと。ただ、業者に発注すると当然お金がかかることもわかりました。
それならさっそくDIYです。本棚から辞書を引っ張り出して自力で英文チラシを作り、自分でコピーしてホチキス留め。売り物は30分のドキュメンタリーやローカル生ワイドからの再編集ものです。毎日のお料理コーナーも再編集して一本の番組にしました。サンプル映像は自宅のパソコンでDVDに焼き、カバンに詰めてどこへでも出かけました。海外見本市のブース代は札幌映像機構さんに出してもらい、割引の飛行機チケットと安宿の一人旅で経費を極限まで抑えました。トータルで10万円あればなんとか番組が売れる! 後に「ゲリラ戦法」「竹槍部隊」「行商」と言われる、ローカル局ならではのやり方で海外へ乗り出しました。
見本市に出展するうちにノウハウがたまった
最初は英語力と権利処理が不安でしたが、馬には乗ってみろ、見本市には出てみろです。東京・香港・シンガポールと見本市に出展するうちにノウハウがたまり、海外バイヤーと丁々発止でやりとりできるようになりました。幸運にも初年度から顧客に恵まれ、台湾、タイ、インドネシア、シンガポール、香港……バイヤーたちがSTVの旅番組を次々と買っていきました。
今、アジアからの観光客は団体旅行から個人旅行に移りつつあり、ベーシックな旅番組からマニアックな番組に需要が変化しています。そのニーズに応え年々本数と内容を充実させ、売上も増加させました。今では世界最大のMIPCOMにも出展し、4K番組も売っています。
もちろん、私だけで仕事は回りません。札幌本社のコンテンツ部が、強力にサポートしてくれました。「どさんこワイド」を中心に、ローカル放送番組を権利処理し、再編集して、安価に番組を作り出すパワフルな工場です。その習熟度とスピードたるやすさまじく、現在までに1300本も生み出しました。サブ上げ素材、白素材にマザーなどの確保には、制作現場や生放送スタジオの協力も絶大でした。こういう社内調整は実は非常に困難で、ここでストップしてしまう局も多いと聞きます。粘り強い交渉で少しずつ社内の協力者を増やしてくれたのも、本社コンテンツ部の功績です。おかげで売り物の本数はどんどん増加し、私は販売に専念できました。
出だしは順調でしたが、数年経つと悩みも出ました。海外バイヤーから、「富士山の番組ある?」「京都の番組は?」と聞かれたときに、「うちは北海道の局なので、ないんです……」と答えることが増えたのです。海外からすると県域放送は関係ありません。「なぜワールドワイドな市場なのに、北海道オンリーなんだ? 自己規制か?」と言われて悔しさに涙を飲みました。
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