欧州へ渡ろうとする移民の多くが就労ビザなどを持たない非正規移民(irregular migrants)であるため、これらの移民の全体像に迫るのは難しい。そうした中で、今回、移民輩出国の1つであるエチオピアの町ジジガで取材ができた。
現場で取材をすると、命をかけてまで欧州に渡ろうとする背景には、貧しい環境から逃れ、自由とよりよい生活を求めて欧州行きを決意する若者が多いことが浮き彫りになった。
大干ばつが移民の動きを加速
エチオピアは過去10年でほぼ2桁台の経済成長を見せているが、いまだに世界でも最貧国の一つだ。政府も強権支配を行う半独裁国家として知られる。同国の中でもソマリ州は伝統的に遊牧民の土地で、乾燥した土地は干ばつの影響を受けやすく、貧しい州だ。実際に、昨年エチオピアを襲った30年ぶりと言われる大干ばつで、多くの人々が食糧配給の支援を受けている。この大干ばつも移民の動きを加速させている。
それに加えて、ソマリアに隣接する同州は、イスラム過激派アル・シャバブの危険や、同州オガデン地方の独立を訴えるイスラム系武装反政府組織の反乱という問題も抱えており、これらを抑えるためにライフル銃を持った迷彩服姿の特別警察が町中で警戒している。筆者が滞在していた間にも、ある夜、特別警察が通りで市民の男性を何度も殴る姿を見た。また日中、町内で写真を撮ろうとすると、同伴したドライバーは「一緒にいたくない」と言った。特別警察に逮捕されたり殴られる危険性があるからだという。
ジジガに住む別の男性ユスフ・ホマメドの18歳の息子カマルも昨年4月、ジジガからサハラ砂漠を経てリビアからボートでイタリアに渡った。幸運にも危険な旅は成功し、現在はスウェーデンのストックホルム郊外の町で暮らし、語学学校に通う。カマルはジジガにいた頃、特別警察に3回捕まり、約1週間拘束されたことがある、という。「(特別警察が)人を手当たり次第に逮捕するというのはよくあることだ。水に顔を浸けられたり、殴られることもよくある」とユスフは言う。「欧州に行くまでのリスクは非常に高い。けれどもここにいるよりもスウェーデンにいる方がはるかに安全だ」。
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