貧困に喘ぐ若者が地中海で溺死する深刻事情 SNSがアフリカの貧しい若者を刺激している

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地図上の赤いマークが示した街のうちスーダンとの国境にあるのがメテマ、ソマリアとの国境に近いのがジジガ。中央が首都のアディス・アババ

トリポリにたどり着いた息子はジャメルに電話をかけてきて言った。「5500ドルを送金してくれ。そうしないと密航業者に殺される」。ジャメルは冷蔵庫、ベッドなど家財道具をすべて売り、さらに同僚から資金を集めて送金した。息子は解放されたが、今度はリビアからイタリアまでのボードの渡航費2500ドルが必要だと言ってきた。再度送金すると「2日後にボートでイタリアに着けるはずだ」という電話があった。これが息子の声を聞いた最後だった。「私は息子にはすべて与え、できることはすべてやった。けれども息子を止めることはできなかった」。息子の遺体はエチオピアには戻らない。

欧州へ向かう難民・移民が急増

この数年、紛争、抑圧、飢餓などを背景にシリアなどの中東や、エチオピア、エリトリアなどのアフリカから欧州を目指す難民・移民の数が急増している。国際移住機関(IOM)によると昨年はトルコ経由の陸路と地中海を渡る海路を使って100万人以上の人々が欧州連合(EU)域内に入り、今年もすでに24万人以上が欧州入りしている。昨年、世界の難民や避難民の数は第2次世界大戦後を上回り、過去最多の6530万人になった。

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エチオピア、スーダン、リビア、地中海、イタリア

移民たちが欧州入りするために取るルートは出身国で異なるが、エチオピア、エリトリア、ソマリア、ナイジェリアなどのアフリカ諸国から欧州に渡るルートの中で多くの移民が取るのが、リビア、チュニジア、エジプトなどから地中海を渡り漁船やボートでイタリアへ向かうという最も死亡率が高い危険なルートだ。しかし、このルートで欧州へ渡ろうとするアフリカ人は後を絶たず、特に季節がよくなる春先から夏にかけては年間のピークを迎える。IOMによると、今年はこれまでに約8万1000人が無事にイタリアの海岸にたどり着いたが、死者は2500人を超えている。ジャメルの息子はその中の1人だ。

シリア、アフガニスタンなどの難民・移民はほとんどがトルコ経由の陸路のルートでギリシャに入り、今年はこれまでに約16万人がギリシャに到達している。これら難民・移民の一部はエーゲ海を越えるが、エーゲ海での死者はすでに約380人を超えている。

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