一方でEUの交渉スタンスも不透明だ。欧州委員会や閣僚理事会など、どれが英国との交渉を主導するのかが定まっていない。ドイツのメルケル首相は交渉に際して、「欧州委に白紙委任するつもりはない」と公言している。来春以降にはフランス大統領選挙やドイツの総選挙が予定され、EUがその前に最終的な交渉スタンスを決められるのかという課題も横たわる。
離脱交渉の問題以前に、より大きな課題も浮上している。そもそも英国が生き残れるかどうかである。
18世紀後半、英国のフレデリック・ノース首相は入植者による反乱で米国の領土を失い、歴史に名を残した。それから200年余り。英国のキャメロン前首相はEU離脱に加え、スコットランドとの連合解消でも歴史に名を残しかねない。
スコットランドの国家主義者たちは英国との連合解消、EU残留の要求を声高に叫んでいる。また北アイルランドでも、一部住民がアイルランドとの統合の是非を問う住民投票を要求している。今や連合王国である英国自体の存在が脅かされているのである。
移民問題解決や国際社会との連携が不可避
この危機を回避する方法があるとすれば、英政府が「ノルウェー型オプションを基にEUと交渉を始める」と早急に発表することだ。
この選択肢では、英国は経済界が望む単一市場へのアクセスを維持できる。EUへの予算拠出は従来どおり必要だが、農業や漁業分野での政策面での自主性を確保でき、独自に中国、インドなど諸外国と貿易のルールを交渉できる余地もある。
そうした際、英政府に避けられないのが移民問題の解決だ。解決には移民流入によって質が低下している医療施設や学校、その他の公共サービスに対する財政支出が欠かせない。最低賃金制度など労働者保護のルールの適用も求められる。
国際社会との連携も課題となろう。国家主権の確保と他国との協調とのバランスが不可欠であり、メイ新首相にかかる責任は大きい。
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