ニーステロ事件は「フランスの亀裂」を深めた ムスリムの移民たちは、さらなる差別を懸念

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テロの現場では、犠牲者がトラックになぎ倒されて亡くなった箇所に花束が捧げられていた。©Kiyori Ueno

「(ニースの)ビーチには子どもの頃から毎年行っているが、海岸沿いの高級ホテルやレストランに足を踏み入れたことは一度もない。ラグジュアリーな場所で、全てが高いからね」。ラフエジブフレル容疑者の自宅アパート近くに住むモロッコ生まれの47歳のバス運転手の男性はそう話してくれた。

移民への差別が深まるおそれ

この男性は3歳の頃、すでにニースに渡り、建設現場で働いていた父親に母とともに呼び寄せられてニースにやって来た。今はフランス国籍を持つ。毎日の祈りはしないが、ラマダン中の断食は行うムスリムだ。男性は、ラフエジブフレル容疑者がチュニジア人で、ムスリムだったことから、移民に対する差別が深まるのを懸念する。「フランスで最近起きたテロは全て“ムスリム”によるものだった。だから多くのフランス人が事件をムスリムと結びつけるだろう」と話す。「フランス人の我々に対する差別は植民時代からずっとあったが、テロの事件で差別はますます強まるだろう」。

フランスは戦後、自国の再建のために、かつて自分たちの植民地・保護領だったマグレブなどから多くの人々を労働者として受け入れてきた。その結果、マグレブからは多くの移民がフランスに移住してきた。現在人口約34万人のニースには、チュニジア人だけで4万人が暮らしている。これはフランス国内でも最大規模のチュニジア人コミュニティだ。

フランスは植民時代から、フランス語を習得し、フランス文化に適合することでフランス人になれるという “同一化”の政策を取ってきた。移民の融合は欧州ではどの国でも困難を抱えており、フランスもその例外ではない。そしてフランスには推計500万人のムスリムがおり、これは西欧諸国で最も大きなムスリム人口だ。

また、移民たちは多くが郊外に暮らし、ラフエジブフレル容疑者のような運転手や、ホテルの清掃などの低賃金の仕事に就くことが多い。「移民たちの生活は貧しい」と先述のバス運転手の男性は言う。「それに、ニースの失業率は高いけれど、移民たちの失業率、中でも若い移民たちの失業率は高い。仕事を見つけられないでいる」。

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