ヘリコプターマネーは、どうして危ないのか 金融政策は物価をコントロールできなくなる
しかし、ヘリマネはこうした経済的な規律を一切、取り払ってしまう。政府は中央銀行(日銀)に国債を引き受けさせてお金を受け取り、中央銀行は国債を永久に保有し続ける。
将来も返済(償還)を予定しておらず、それゆえ将来の増税もないので、本当にそうかは別として、家計は安心して消費を増やし、物価も上昇していくのだという。バーナンキ氏の定義にならえば、「マネーストックの恒久的な増加=借金を将来にわたって返済しない」点がこの政策のミソなのだ。
だが、ヘリマネ政策が効果を生むには、その規模にもよる。たとえば、インド中央銀行のラグラム・ラジャン総裁は「そのような手段をとらなければならない意図を心配し、人々は消費に回さずに貯蓄し、その結果狙った効果は出ない」と批判していると伝えられている。
バーナンキが懸念したヘリマネの重大な問題
仮に、日本で1億2000万人全員に1人10万円ずつ配るとすれば、12兆円かかる。これは取り沙汰されている秋の補正予算の規模だが、1人10万円を配っても消費ではなくおそらく貯蓄に回り、狙った刺激効果は出ないだろう。また、低所得の年金受給者1100万人に3万円ずつ配る政策は「バラマキ」だという批判を浴びたが、国民全員に10万円配るのは壮大なバラマキなので正当化できるというわけなのだろうか。
では、一桁増やして1人100万円ならどうか。100万円をポンと渡されれば、無駄使いをしたくなりそうだが、これには120兆円もの財源が必要になる。GDP(国内総生産)の約4分の1で、国の年間予算の1.2倍の規模である。しかも、一度きりの政策ではなく、毎年継続的に配らないと持続的に消費を刺激したり、デフレから脱却することは難しそうだ。
日銀がお札を刷ることで120兆円を調達すれば、財源の心配をしなくてもよい。しかしそうしたことを続ければ、通貨価値の暴落=ハイパーインフレーションを招く恐れがある。そんなことが政治的に本当に実現可能で、しかもそこまで極端なことをするほど足元の日本経済は深刻なのだろうか。
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