ヘリコプターマネーは、どうして危ないのか 金融政策は物価をコントロールできなくなる

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バーナンキ氏はFRB理事に就任した直後の2002年に行ったスピーチの中で、デフレ脱却策の一つとしてヘリマネ政策を提案している。ただ、回顧録『危機と決断』(邦題)の中では「ヘリコプター・ベンというナンセンスを一掃」すべくその後活動したと記しており、当時の講演には半ば悔恨の念もあるようだ。

今年4月には自身のブログの中で、「Fedにはどんな手段が残されているか」と題し、マイナス金利政策、長期金利ターゲット政策に続く3番目の手段として、ヘリマネ政策を検討の俎上にのせている。バーナンキ氏は「足元の米国経済は成長を続けており、雇用も創出しているが、これから2、3年のうちに経済が大きく減速する可能性は排除できない。そのときに、金融政策の道具箱(the monetary toolbox)の中に何が残されているか」と問いかけている。政策当局者の間で「金融政策の手段が尽きつつあるのではないか」いう懸念が浮上していることが、こういう問いを立てた背景にある。

「返さなくてもよいおカネ」という虫のよい話

バーナンキ氏によると、ヘリマネ政策とは「マネーストックの恒久的な増加によってファイナンスされた拡張的財政政策」を指す。「ヘリコプターマネー」という言い方だと非現実的な響きがあるのでMFFP(Money-Financed Fiscal Program)と呼んでいる。ヘリマネ政策にはさまざまなバージョンがあるようだが、つまるところ従来の財政・金融政策との大きな違いは、「借金」(debt)でなく「銀行券」(money)で財源を手当てし、大規模に財政出動(減税や歳出拡大)する点にある。

借金でなく、銀行券でファイナンスするとは、調達した資金を返済しないことを意味する。銀行券で調達するので、発行体(この場合は日銀)からすると、債券(国債)や株式で資金調達するときのように利払いや配当の負担もない。

通常の財政政策は政府が国債を発行して歳出をまかない、国債は民間や海外投資家が引き受ける。財政を拡張しすぎると国債金利が上昇し、借り過ぎを抑制するメカニズムが自然に働く。また、当然のことだが、国債は借金なので将来返済することを想定している(日本は借り換えを繰り返し、現在60年かけて償還している)。国の借金はいずれは税収を財源に返済することになるので、現在の多額の借金は将来の増税を連想させる。それゆえ、消費刺激効果も限定的になる。

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