……と、ここで途中だが、デモンストレーションの予定時間が終了。ちょうど両者14枚の持ち札と“良きところ”で試合は終わった。観客は拍手喝采で、両者を見送った。
空腹のほうが、力を発揮できる
先ほどの緊迫した空気がうそのように、楽屋は和やかな雰囲気だ。永世クイーン・渡辺さんがみんなにお菓子を配り、永世名人・西郷さんも受け取る。ステージ上の厳しく勇ましい姿とは、両者とも別人のようだ。
西郷さんは、通算タイトル獲得数が歴代1位。学生時代から早稲田大学かるた会に所属する。最年少の20歳で名人になってから2012年まで前人未到・史上最長となる14期連続での名人位防衛という不滅の記録を持っている。
近頃、その立場を後進に譲る意向から名人戦を辞退して大きな話題になった。日頃はアサヒビール人事部課長として活躍する。
実は、こうやってのんびりとお菓子をいただくことは、大会の途中ならありえないことだ。昨年、全国4段以上の99人の中から勝ち上がってきた挑戦者との戦いに、いつものように西郷さんは万全の態勢で挑んだ。
試合の3カ月前から短期集中で体を絞り、座って構える姿勢に体を慣らして感覚を取り戻していく。勤務中、お昼はキホン食べない。
「1時間程度の勝負を、名人戦では1日5回行うので、途中で眠くなって鈍くなったり、万が一でも腹痛になるのを避けたいので、休憩時も食事は取りません。私の場合、ふだんから食べずに集中できる状態に体をならしています」(西郷さん)
ただ当日、試合前の時間は家族も呼んで、極力、普段どおりにリラックスした状態で過ごしている。スイッチが入るのは相手と対峙した直後から。試合中は、ものすごく集中するので、1日で体重が2~3kg落ちる。
本番が終われば、その後の時期はオフシーズンにして過ごす。話を聞けば聞くほど、そのストイックな姿勢、オン・オフの切り替えはアスリートそのものだ。
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