福島第一原発事故、拙速すぎた避難指示解除 政府と南相馬市の住民への対応は「約束違反」

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除染後も毎時1マイクロシーベルトを超える場所も(川房行政区)

田畑の除染もいまだ途上だ。地区のあちこちに未実施の箇所があるうえ、田んぼの土手も草を刈っただけで表土の除去は実施されていない。そのため、空間線量が毎時1マイクロシーベルトを上回る箇所が点在している。

政府が避難指示解除の基準とする年間追加被ばく線量20ミリシーベルト(政府の計算で毎時3.8マイクロシーベルト相当)以下ではあるものの、一般人の立ち入りを厳しく規制する放射線管理区域の設定基準である年間5.2ミリシーベルトを上回っている地点も少なくない。

桜井市長の責任を問う声も

避難指示解除に反対したのは川房地区の住民だけではなかった。5月15日から22日にかけて市内で4回にわたって開催された小高区の住民向け説明会でも、「避難指示解除は時期尚早だ」「農地や道路、墓など除染が完了していないところがあちこちにある」といった意見が相次いだ。また、「解除の時期を国と市長で決めることには反対だ」「解除時期についてアンケートを採ってほしい」という声も上がった。

だが、桜井市長はそうした意見に耳を貸さず、説明会の終了からわずか5日後の5月27日には政府による解除方針の受け入れを決定。県外に避難している住民への説明会はその後の6月4日から12日にかけて実施されるなど、後回しの対応になった。

南相馬市と対照的なのが、川俣町の対応だ。7月7日の町議会全員協議会で川俣町は、「山木屋地区については8月末までの避難指示解除目標を正式に撤回する」と表明。古川道郎町長は、山木屋地区自治会から要望されている2017年3月末も視野に入れて解除時期を延期する考えを明らかにした。宅地周りの線量引き下げや帰還後の生業の確立など、抱えているテーマは南相馬市小高区と同じだ。

避難指示解除前日の7月11日、小高区の住民有志が南相馬市役所内の記者クラブを訪れて「福島第一原発事故の避難指示解除に当たって、桜井勝延市長の歴史的責任を問う」と題した文書を記者に手渡した。有志の一人である國分富夫さん(71歳)は、「住民の叫びを真摯に受け止めずに、事実上切り捨てたこと」など3点にわたって桜井市長には判断の誤りがあると批判する。国分さんは12日には市にも文書を提出しようとしたが、受け取りを拒否された。

南相馬市は避難指示解除後の復興の取り組みについて国、県との間で合意文書を取り交わすことにより、国が復興をおろそかにすることがないように歯止めをかけたという。解除を遅らすことは復興の営みを妨げるというのが桜井市長の考えだ。

だが、性急な解除によって住民との間に生まれた溝は深く、多くの住民が国や南相馬市に不信感を抱く結果になっている。南相馬流のやり方が正しかったのか、検証すべき点は多い。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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