福島第一原発事故、拙速すぎた避難指示解除 政府と南相馬市の住民への対応は「約束違反」

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川房地区を占拠する汚染土砂の仮置き場

議論が紛糾したのは、会合が1時間半を過ぎた頃だった。参加していた女性が、高木陽介・政府原子力災害現地対策本部長(副経済産業相)に向かって大きな声を上げた。

「私たちの話を聞いて(避難指示を)解除するって約束したじゃありませんか。それが守られていないから、解除しないでくださいって言っているんです」

女性は書類を取り出し、「こう書いてある」と言って読み上げた。
「貴行政区(=南相馬市小高区川房行政区)は、国が責任を持って除染をすることになっています。まず、除染をさせていただいて(現在の)居住制限区域から避難指示解除準備区域にします。その後、インフラ整備等ができた時点で、皆さんのご意見等をお聞きして避難指示区域の解除となります。その後、川房に戻る、戻らないについては、ご本人の判断になります」

政府や市長は約束破り

政府の後藤収・現地対策本部副本部長が「それって環境省(が作った文書)?」と驚きの表情を浮かべた。
「南相馬市です」と女性。
「市が言ったの?」と聞き直す高木本部長。
江口哲郎副市長(当時)は「私個人はまったく初耳。発言者はどなたですか?」と聞き返した。

ここに、女性が読み上げた文書の写しがある。2012年8月3日付けで桜井・南相馬市長が当時の川房行政区長に宛てて回答したものだ。

表題は「川房行政区 警戒区域解除後アンケート結果に伴う市の考えについて」。そこでは、いっぺんに解除するのではなく、除染後に現在の居住制限区域から避難指示解除準備区域に変更すること、インフラ整備後に地区の住民の考えを聞いてから避難指示解除となること、などが明記されていた。

やりとりの中で、高木本部長は桜井市長名の文書について、「今初めて聞いた。ここのメンバーはその場にはいなかった」と発言。

「それは逃げではないか」と声を上げる住民を前に「いや逃げてはいない。国のメンバーがいて立ち会っていたなら責任を取っていかないといけないけど、そこにはいなかった」と高木本部長は反論した。

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