福島第一原発事故、拙速すぎた避難指示解除 政府と南相馬市の住民への対応は「約束違反」

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今年5月に川房行政区が住民向けに実施したアンケート結果によれば、回答した62人のうち、「解除になればすみやかに戻る」と答えたのはわずか7人、11%に過ぎなかった。横田さんは「すぐには戻らないが、時期を見て戻る」にマルをつけた22人(36%)のうちの一人だった。

すぐに戻れないことにはいくつもの事情がある。第一の理由は家族の事情だ。94歳の母親は現在、埼玉県内の特別養護老人ホームに入所している。「南相馬に戻っても、どの施設も満杯なので、連れて行くのも難しい」(横田さん)。68歳の妻からは「隣近所もいないところに帰ってどうするの」と心配されている。ただし、江戸時代から続いてきた農家の17代目の当主である横田さんには、「自分が戻らなければ」という気持ちも強い。

荒れ果てた梨畑を眺める横田芳朝さん

もっとも、生活を支えてきた梨栽培の再開は不可能に近い。一度手入れをやめた梨の木の枝は伸び放題。放射性物質も付着しているため、切り倒す以外に手だてがない。問題はその後だ。畑の除染をして新たに梨の木を植えたとしても、「実がなり始めるのに5年、採算が取れるまでに10年かかる」と横田さんは説明する。「その間は無収入。年齢的にも無理だろう」ともいう。

東電は新たな賠償方針を提示していない

「避難指示区域で農業を再建するには、これまでのような休業による所得の減少分だけでなく、営農再開に向けての費用の補償も求めていかないといけないだろう」とJAふくしま未来そうま地区本部の担当者は説明する。だが、はたして東電は個別農家の事情をきちんと踏まえた新たな賠償方針を提示するのか。本来、今年春までに提示される予定だったのが秋にずれ込んでいるうえ、いまだに方向性が見えない。

このような事情があるにもかかわらず、避難指示の解除が大急ぎで進められようとしてきたことに、住民は反発を強めている。

1月24日、福島県南相馬市の小高区役所で始まった政府および南相馬市と小高区川房地区の住民代表との話し合いは、予定の時間を大幅に超過して3時間にも及んだ。

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