福島第一原発事故、拙速すぎた避難指示解除 政府と南相馬市の住民への対応は「約束違反」
だが、政府や市長が住民との約束を反故にしたことは紛れもない事実だ。内閣府の原子力被災者生活支援チームが13年10月に作成した「避難指示区域の見直しについて」と題した資料にも、次のような記述がある。
「電気、ガス(中略)など日常生活に必要なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスがおおむね復旧し、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗した段階で、県、市町村、住民との十分な協議を踏まえ、避難指示を解除する」
「解除に当たっては、地域の実情を十分に考慮する必要があることから、一律の取り扱いとはせずに(中略)県、市町村、住民との十分な協議を踏まえ、避難指示を解除する」
集落の全世帯が解除に反対
本来であれば、避難指示が解除されて住み慣れたわが家で暮らせるようになるのは喜ばしいことだ。しかし、除染もきちんと実施されておらず、農業を初めとした地域の産業が破壊されたままでは、避難指示解除に多くの住民が不信感を持つのは当然だ。なぜならば、避難指示解除は、遠くない時期に精神的損害や農業の損害賠償終了にもつながっていくからだ。原発事故の被害を賠償だけで解決することはできないが、生活基盤が整わずに賠償がなくなれば住民は切り捨てられたのも同然になる。
小高区の山あいにある川房行政区では今年までに、全世帯が連名で避難指示解除に反対する要望書を政府に提出していた。それにはいくつかの理由があった。
佐藤定男・川房行政区長によれば、「除染が不十分だったことが大きい」という。
佐藤区長は当初、「囲い」(屋敷林)の除染について、宅地の境界から5メートル先までしか対象にしないと環境省から聞かされていた。しかも、除染とは名ばかりで、雑草やゴミを取り除くだけで汚染された土壌はそのままにするというものだった。行政区が一致団結して要求したことで最近になってようやく表土の除去と客土による入れ替え、20メートル先までの除染を行うことが決まったという。
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