マイクロソフトは諦めない--シリコンバレーで根強いヤフー買収再挑戦観測
5月7日にビル・ゲイツ会長がヤフー買収断念を明言したマイクロソフト。同社幹部クレイグ・ムンディ氏も「1株33ドルでお願いだから買ってくださいとヤフーが頼めば考え直すかもしれないが、実現性は薄いだろう」とロイターに語っている。「終わった過去の出来事」というマイクロソフト社員の声に代表されるように同社社内でコンセンサスも出来ている。
しかし、ヤフーのお膝元、シリコンバレーではマイクロソフトがまだヤフー買収を諦めていないという憶測が根強い。地元紙サンノゼ・マーキュリーニューズは、「Don‘t count Ballmer out yet」という見出しで、同社がヤフー買収から「完全に手を引いてはいない」のではないかとの見方を示す。記事は、スティーブ・バルマーのオンライン事業への指導力が試されるのはこれからとしている。負けず嫌いで有名なバルマー自身、「(世界2番手のネット検索である)ヤフー買収で、グーグルに挑む」と何度も公言してきている。マイクロソフトの将来は、既存のソフト販売から、インターネット事業で大きく展開できるかにかかっており、バルマーは、そうあっさりと引き下がるわけにはいかない、と言うのが大方の読みだ。
パソコン向けにソフト販売をするマイクロソフトのビジネスモデルは、現在は驚異的な利益を生み出している。が、このところ、インターネットを通じてソフトを配布するビジネスモデルが台頭している。これらのネット配布型のサービスは、ユーザーへの対応がきめ細かで、使い易く、比較的安価だ。さらに、グーグルは、利用者獲得とそれによる広告収入拡大を狙って、ワープロソフトや表計算ソフトなどをウェブ上で無料提供している。マイクロソフトは、こうしたソフトの低価格化・無料化が浸透すれば、現在のメーカーや小売店経由のソフト販売モデルが、将来競争力を失うのではないかと危機感を持っている。これがヤフー買収に乗り出した大きな要因となっている。
ヤフーのジェリー・ヤンCEOらを批判する声も強い。多くのヤフー株主が、マイクロソフトの申し出を上手く受け止めて、交渉しなかったことに不満を持っている。ニューヨークタイムズ紙は、ヤフー株を16%保有するキャピタル・リサーチのゴードン・クロフォード氏が、ヤフー株を34ドルで売りたかったが交渉が決裂し「ジェリー・ヤンといわゆる独立した取締役会に非常に怒っている」と報じている。T.ロウ・プライス、レッグ・マッソンなど、ヤフー株大手株主らは、マイクロソフトの買収提案受け入れを望んでいた。
シリコンバレーのあるCEOは「買収決裂で喜ぶのはグーグルだけじゃないか。(ヤフーの)経営陣が(感情的に動く)子供たちだからしょうがない」と、株主利益を一番に考えるべきと指摘すると同時に、シリコンバレーの有名企業ヤフーの行く末を案じて率直な感想を漏らしている。某ベンチャー・キャピタリストは怒ったヤフーの株主が年次株主総会で、現在の取締役メンバーを解任し、新たにマイクロソフトとの交渉に入るのではないかともにらんでいる。シリコンバレーの他の投資家も「MSはヤフーの資産全てを安く買い上げることを望んでる。きっと、買収に向け再度動くはず」と断言する。
前例はある。シリコンバレーでの他社の買収例で、オラクルが企業向けソフト大手のBEAシステムズ買収に動いた時、最初07年10月に67億ドルで買収を持ちかけたが、すぐに拒否された。そこで、一時撤退し、08年1月に再度85億ドルと申し出て、最終的には買収に成功した。
ヤフー社長のスーザン・デッカー氏は「1株33ドルと書面で渡されたわけではなかったし、株価以前に企業文化が合うかどうかといった、そこまでの話し合いはなかった」と述べているが、これはもっぱら「ヤフー株主からの買収に応じなかったという批判の矛先をかわすため」と受け取られている。
さまざまに飛び交う憶測はさておき、事業に専念すると断言したヤフー経営陣。ヤフーは世界最大のSNS・マイスペースと、ヤフーのサイトでユーザーが互いにプロフィール・データを共有できるようになる「データ・アベイラビリティ」を発表。写真、ビデオ、リスト等の相互エクスポートが近々可能なるという。提携にはイーベイも含まれ、合計で米インターネットユーザーの85%に及ぶ1億5000万人のユーザ数に上るという。
また、ここにきて検索No.1のグーグルがヤフーとの関係協調路線に出てきた。グーグル共同設立者セルゲイ・ブリン氏は「(両社は)文化も似ており、一緒に働くことを楽しんでいる」と、ヤフーにネット広告システムを試験提供する試みについて述べた。グーグル代表取締役のエリック・シュミット氏は「試験は成功だった。ヤフーとこれからもっと話していく良いベースになった」。
マイクロソフトも動いている。1.6%の株を持つ、大学生に人気のあるSNS・フェースブックに買収を持ちかけた。しかし、シリコンバレー、パロアルトにあるフェースブックのマーク・ザッカーバーグ(23歳)氏が「現在、事業経営に熱心で、あまり身売りの意思はなさそう」と、アナリストたちはみている。
(Ayako Jacobsson =東洋経済オンライン)
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