「生真面目で頑張り屋」ほど危ない海外赴任 メンタルの健康を保つ「6つのセルフケア」

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5. 適度な距離感の人間関係

海外における日本人社会は狭くて濃い。日本では絶対友達にならない人とでも、海外では心細さや小さな不安感からついつながってしまい、話さなくていいことまで打ち明け面倒なケースとなる場合がとても多い。人間関係には適度な距離を持たせることが快適な海外生活には必須である。

6. 何でも話せる支援者を持つ

心と身体の健康には複数の支援者の存在が欠かせない。自分を孤独にしない。悩みがあるなら、声を挙げて周囲に不調を知らせる努力が大切だ。特に海外単身赴任の場合、アルコールの過剰摂取に陥る場合が多く報告されている。一人での抱え込みは組織全体に迷惑をかけることにつながる。

こうしたセルフケアを行っていても不調に陥ることはある。身体の健康の目安は「睡眠」「食欲」だが、心の健康についてはさらに「現状への満足度」が重要となる。最初のうちは、日本にいた時の半分のパフォーマンスが達成できれば上々である。その自分を受け入れ、ほどほどの満足度を維持することが海外赴任には求められる。

異文化適応に役立つストレス対処能力

特に初めての赴任の場合、多くは本社の期待に150%応えようと頑張り過ぎてしまう。さらに筆者の経験では20代、30代の若年赴任者は「情けない自分」と向き合う経験に乏しく、何でもそつなくこなしたい傾向の人が多いように感じる。だがこれまでの価値観を離れ、異なる文化や環境を受け入れることは誰にとっても容易なことではない。

異なった環境への適応はハネムーン期、批判期、適応期の過程を経ると言われる。赴任当初の新鮮な驚きや気分の高揚は徐々に薄れていき、さまざまな不平不満、疲れを感じる時期を経由して、ようやく異文化を受け入れる時期に落ち着く。ハネムーン期には普段の力の半分ぐらいで行動し、批判期には事故や怪我、気分の落ち込みなどに注意をしよう。この時期に自分を客観視できれば、適応期を早く迎えることができる。

さらに海外赴任を乗り切るためにはSOCを高めることも有効だ。SOCとはSence of Coherenceの略でストレス対処能力のこと。SOCは①有意味感②全体把握感③経験的処理可能感の3つで構成される。①は苦手な仕事を任された時に「これも経験。案外面白いかも」と前向きに考えられる感覚。②は俯瞰的に物事をとらえ、赴任地が気に入らなくても「まあ、あと2年の辛抱」などと思える感覚。③は経験を自信として仕事に当たり、必要に応じて助けを求められる感覚のこと。焦らず、回り道もOKとしながら海外という新たな枠組みの中で、自己と柔軟に折り合いをつけられる大らかな赴任者を目指したい。

筧 智子 公認心理師

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かけひ ともこ / Tomoko Kakehi

ストレス診断・出張カウンセリング・メンタルヘルス研修・人事や管理者へのコンサルテーション・復職支援プログラムなどを手掛けるEAP(従業員支援プログラム)プロバイダーに勤務。また心療内科での心理職としても活動。上智大学大学院の博士後期課程に在学中でもある。

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