「糖質制限危険説」は一体どこまで真実なのか 根拠なき脅しに惑わされず正しい知識を持て

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このダイエットの最大の魅力は、短期間で大きな減量効果があること。Kさん(30代・男性)も、その効果を実感した1人だ。子どもの頃から自らの肥満体にコンプレックスを抱いてきたKさんは、これまでカロリー制限、ジム通いといった数々のダイエットに挑戦しては挫折してきた。藁にもすがる思いで雑誌に特集されていた糖質制限に挑戦してみたのが2年半前のこと。1日3食すべて主食を抜くという厳しいやり方で臨んだところ、身長170cmで76kgあった体重が、半年で15kg落ちた。

今なお、挫折はしていない。「食べることが大好きな僕にとって、お腹いっぱい食べられないのはストレス。その点、糖質さえ控えれば、肉も脂っこいものも食べて良いこのダイエットは自分に合っていた。職場の飲み会に参加しても、乾杯のビールを糖質の含まないハイボールに替えれば良いだけだから、心置きなく楽しめる」(Kさん)。

糖質制限ダイエットのカギ

そもそも糖質を制限すると、なぜ痩せるのだろうか。カギとなるのは、別名「肥満ホルモン」とも呼ばれるインスリンの働きだ。

糖質を摂取して血糖値が上がると、それを下げるために膵臓からインスリンが分泌され、血中のブドウ糖を筋肉細胞に蓄積しようとする。だが、ブドウ糖の量が過剰だと、脂肪細胞がそれを取り込み、中性脂肪に変えてしまう。これが、糖質の過剰摂取が肥満につながる理由だ。白米は茶碗一膳で55g、うどん1玉52gと、われわれが「主食」とする穀物の糖質は高い。

ご飯やパン、麺などに糖質は多く含まれている(撮影:尾形 文繁)

一方、タンパク質や脂質は血糖値を上げない。たとえば脂身たっぷりのサーロインステーキを100g食べたとしても、含まれる糖質はたったの0.3g。血糖値がほとんど上がらず、インスリンの大量分泌も起きないので、太りにくいというワケだ。

糖質制限が、脂質を控えたカロリー制限よりも高い減量効果を持つことは、医学的なエビデンスがすでに複数ある。2008年に世界的な権威を持つ医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された、肥満のイスラエル人に対する2年間の検証によれば、脂質を控えてカロリー制限をしたグループよりも、カロリー制限なしで炭水化物を控えたグループのほうが体重の減少幅は大きく、同時に血中のコレステロール値も低かった。今年6月の米国糖尿病学会では、順天堂大学の研究グループが日本人にも同様の効果があることを報告している。

これだけを聞けば、史上最強のダイエット法のようにも思える。だが、従来の食事の栄養バランスをガラリと変えることになるため、気になるのが安全性だ。「頭がぼーっとする」「階段で息が上がる」というちょっとした体の不調から、「あの著名人の死は糖質制限が原因ではないか?」という深刻なものまで、さまざまなレベルでのうわさが飛び交う。そして事実、日本糖尿病学会が2013年に出した提言では、長期間にわたって極端に糖質だけを制限した食事は「推奨しない」としている。

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