資本主義は、もう「戦争」でしか成長できない 思想家・内田樹×政治学者・白井聡 特別対談

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内田:ずっと賃貸です。不動産を私有するということにまったく興味がなかったし、おカネもなかったし。バブルの頃、まわりの連中は不動産か株やってましたからね。よく言われましたよ、「なんで内田は株やらないのか」って。「内田ね、地面におカネが落ちているんだよ。ただ、しゃがんで拾えばいいだけなんだよ。なんで、それをしないの、お前は。バカじゃないの」って嘲笑されました。でも、僕はそんな話信じなかった。「カネというのは額に汗して稼ぐものだから」と思っていたから。

白井:労働価値説にのっとっていたから、バブルに引っかからなかったんですね(笑)。

内田:バブルになんか引っかかりませんよ。株買わないし、不動産も買わない。そもそも博打に興味ないですから。でも、僕が90年に神戸女学院大学に赴任したときは、まだバブル崩壊前だったから、すごかったですよ。職員でシャネルのスーツを着て出勤してくる人がいたり、夏休みはぞろぞろと長期のヨーロッパ旅行に行ってましたね。「電話1本で1カ月の給料分が儲かっちゃうんだもん。止められないわ」って言ってました。幸い、バブルが崩壊したら、みんなまた地味な服に戻ったけど。でも、あのバブルの時期が楽しい経験だったという記憶だけが残って、最後に全部すったことはきれいさっぱり忘れてるんですかね。

白井:当時、僕はまだ小学生ぐらいでしたので、あこがれないで済んでいる。

内田:異常な時代でしたよ。そんなものを「もう一度」なんて、頭おかしいです。

成長しない定常経済、人口減少を前提とした縮小均衡。日本の将来を考えれば、そういう方向しかないわけです。「成長しなくても、大丈夫」という、納得のできる国家戦略を立てて、そのための具体的な政策を吟味するのが政府の仕事のはずなんです。そういう軸がはっきり出てくれば、日本人は力を発揮しますよ。なにしろ未だ人類史上で誰も経験していない、前代未聞のことをやるわけですから。倣うべき成功事例が存在しない。だから、何を語っても「机上の空論」にしかならない。でも、日本にもバーニー・サンダース(米国上院議員)みたいな夢見がちの人が出てきて、わくわくするような未来像を語って結集軸をつくれば、日本人は一致協力して、その目標に向かって進んでゆくということだって、ないとは言えない。日本が生き残れるとしたら、それしか手立てはないんじゃないですか。

白井:同感です。「アベノミクスで日本経済大復活」なんて言われても、まったくピンと来ない。

内田:ところが自民党ばかりか野党までもまだ「成長戦略がどうの」とぐずぐず言っているでしょう。この間、聞いたらSEALDsの若い人たちまで「持続可能な経済成長」とか言っているんですよ。思わず天を仰ぎましたね(笑)。あのね、もう成長しないの。

あとは戦争しか手が残っていない

白井:何が何でも経済を成長させようというアベノミクスに、もし成功する道があるとすれば、それは軍事ケインズ主義であろうと僕は思っています。つまり戦争を起こすということです。先日、エコノミストの浜矩子さんの話を聞く機会がありました。浜さんが言っておられたのも、「資本主義は限界である。経済成長も限界である」ということでした。浜さんによれば、経済成長が必要とされるケースというのは2つしかない。すべてを失ったときと、これからすべてが始まるときである、と。どっちにしても、何もない状態ですね。

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