資本主義は、もう「戦争」でしか成長できない 思想家・内田樹×政治学者・白井聡 特別対談
白井:はい、横浜のマンションの件は酷いですね。ああいった巨大建築物になると、買い手は自分の目では確かめられない。しかも、あれは氷山の一角なのでは、という疑念はぬぐえないですよね。宮崎さんはもともと建設会社を経営していた人なので、「これは大変なことになるぞ。必ずツケが回ってくるぞ」と警告されていたんです。そういう事態が実際に生じているということが疑われます。
2%成長では富の集中しか起こらない
内田:オリンピックにしても、リニア新幹線にしても、なんのためにやっているのか理解できない。そもそも無理やりに経済を成長させて何をする気なんですか。
白井:アベノミクス派の理屈は、「成長で得たおカネを貧困層に対する分配の原資にする」というということでしょう。
内田:嘘ですよ。「経済成長は、もうできません。だから、成長戦略もありません」とあっさり認めてしまって、「成長しない国をどうやって運営していくのか。どうやって1億2000万人の国民を食わせてゆくのか」について、オルタナティブのプランに知恵を使わなければいけないはずなんです。知的な資源は「成長しなくても、生き延びられる戦略」の立案に集中すべきなんです。
成長戦略と言ってみても、もうオリンピックだのカジノだの武器輸出だの原発再稼働だの、そんな手垢のついたアイデアしか出てこない。あとは官製相場で株価操作するぐらいしか思いつかない。今、日本のリーダーが言わなければいけないのは、そのことだと思います。「日本はもう経済成長しません。成長なくても生き延びるために、何か次の手立てを考えましょう」。それを言える人が真のリーダーになれると思います。
白井:本当にそうですね。だいたい2%程度の経済の伸びでは、むしろ富の集中しか起こらないということは、小泉政権で明確に実証されている話です。多くの人たちの生活実感としては、格差が広がってかえって貧しくなっただけでした。にもかかわらず、なぜここまで成長戦略一辺倒が続いているのか。考えてみると、本当に不思議なことですね。
内田:ひとつの理由は、日本には今もまだバブル期の蕩尽(とうじん)の経験を惜しんでいるおじさんたちがたくさんいるということでしょう。彼らはいまでも「バブル期の日本が、日本人が最も幸福だった時代で、日本のあるべき姿だ」と本気で思っている。