資本主義は、もう「戦争」でしか成長できない

思想家・内田樹×政治学者・白井聡 特別対談

白井:水野和夫さんの著書などを拝読すると、戦後の日本経済はオイルショックまでが高度成長時代で、オイルショック以降も、それ以前に比べれば落ちたとはいえ、70年代の間はまだかなりの成長率を維持していた。ところが80年代は、バブル景気で景気が良かったと言われている割に、平均成長率としては実は70年代よりも低かったんですね。バブル期を振り返って、「あの時代は景気が良かった」と言う人は多いけれども、それはイメージだけの話であって、実際の経済発展という面ではたいしたことがなかった。

内田:時代の空気だけですよ。みんなでたらめな消費行動をしていましたけれど、あの過剰な消費行動を後押ししていたのは「明日はもっとカネが入ってくる」という幻想だけなんですから。若い人たちが未来を担保に入れてばんばん高額の商品を買った。ふつうの大学生がベンツやBMWを乗り回し、女子大生がミンクのコート着て通学していた時代ですからね。今だったら想像もできないけれども、何の才覚もないおっさんたちが、地価や株価の高騰のおかげで突然、北新地でドンペリばんばん抜いて、女子たちに札びらばらまくような消費行動が許された。

白井:ある日突然、王様になった気分だったのでしょうね。

内田:ええ。あの時代が我が人生最高の日々だったと回想している人って、いまでもいるんじゃないですか。毎日が王侯貴族の気分だったなあ、って。あの数年間に自分の青春がかぶった世代は、あの時の脳内麻薬物質の放出の快感が忘れられないんでしょう。それより上でも下でも、「バブルの時代が一番よい時代だった」と思っている人は、年がいくつでも、「バブル世代」と言っていいんじゃないですか。「消費すること」に激しい快楽を感じているなら。

「ロストジェネレーション」世代も、「あの時代の連中はバブルの時代にさんざんいい思いをした」というふうな書き方をしますよね。それが「自分も同じことがしたい」というなら同類です。年齢は関係ないんです。あのような愚劣で無意味な消費行動に快楽を感じていた連中と、それをうらやましがる連中は同類ですよ。そういうおっさんたちが「原発稼働しても、カジノ解禁しても、格差が拡大しても、福祉を切り捨てても、経済成長を」ということを夢見ている。

経済書はなぜ、自己啓発本化したのか

白井:安倍政権になってアベノミクスなる政策が始まった途端に現れた現象があります。それは書店の経済時事書の棚が、自己啓発本の棚と見分けがつかなくなったことです。「アベノミクスで日本経済、超復活!」「日本経済すごすぎ!」みたいな、見るからにどうしようもない本があふれ返るようになった。で、これらの本は、嫌韓・嫌中本と親和性が高い。なぜなら、これらの本によると、日本経済が大復活する一方で、韓国と中国は経済的に破綻することになっているらしいからです。

したがって、これらの自己啓発本と見分けのつかない経済時事本を買っている層と極右ヘイト本を買っている層は、かなり重なっている可能性が高い。つまり、これは「日本のおじさん」のエートスと安倍政権という問題なのですね。「何が何でも経済成長を」という心理は、自らの不能性を否認したいという惨めな欲望に支えられ、さらにそれは排外主義にもつながりかねないわけです。

ところで、内田さんは80年代はずっと賃貸暮らしをされていたんですか。

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