(第2回)再生医療と幹細胞(その2)

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渡辺すみ子

●幹細胞のさまざまな性質

 幹細胞はただひとつの細胞の種類を指していうのではない。

幹細胞:様々な形態や機能を持つ複数の種類の細胞に分化することができ、同時に、自分とまったく同じ性質の細胞に分裂することができる、未分化な細胞のことをいう。

 多分化能と自己複製能を持つという幹細胞の定義も、必ずしもすべての幹細胞にあてはめることはできない。

分化:発生段階などでまだ特殊な機能(分泌、電気シグナルの伝達など)をもたない細胞が、より成熟した機能的な細胞に変化すること。機能の獲得にともない形態も変化するが、その一番の例は神経細胞である。他の細胞と電気信号をやりとりするため長い突起をもっている。

 あるいは、必ずしもすべての幹細胞について証明されているわけではない。幹細胞は胚性幹細胞(ES細胞)と組織幹細胞に大別されるが、その多分化能について、すべての種類の細胞になれるのか、2,3の種類の限定した細胞になりうるのか、という点で幹細胞には階層があると考えてよいであろう。

ES細胞:あらゆる細胞に分化する能力を持つ細胞株。ES細胞を作るために受精卵が少し発生した胚を用いることから、ヒトES細胞の樹立には慎重な倫理上の配慮が必要となる。
組織幹細胞:既に体の中にある組織(骨髄、肝臓、角膜、網膜など)から採取される幹細胞。=成体幹細胞、体生幹細胞

 これは受精卵からの長い発生過程を考えれば容易に理解される。
 受精卵はそこからすべてがはじまるという点で究極の幹細胞であるが、しかし自己複製しない、という意味で幹細胞ではない。そこにもっとも近いのが胚性幹細胞(ES細胞)である。

下の写真は、いずれもマウスのES細胞ですが、aが未分化な状態、bが分化した状態です。

a b
図2-1 マウスES細胞の写真(渡辺研究室撮影)

a 未分化ES細胞の写真
ES細胞は他の細胞同様プラスティックのシャーレのなかで簡単に培養が可能である。培養液にLIFというホルモン様の分子をいれておくと、このようなコロニーと呼ばれる丸い塊をつくる。コロニーは沢山の細胞が集まっているものだが、個々の細胞の境界ははっきりしない。この状態のES細胞をマウスのきわめて初期の胚にガラスのピペットを用いて打ち込むとマウスの組織とともに発生し、すべての組織になる。

b 分化したES細胞の写真(米粒のようにみえるのが細胞ひとつひとつ)
LIFを培養液からのぞいてやると、ES細胞はシャーレの中で分化をはじめる。コロニーはもはや形成されず細胞一つ一つの形がはっきりわかる。このとき、培養液中に加える物質の組成など条件を様々に変えてやることで特定の細胞に分化させることができる。

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