「移民が増えて生活が困っているのに、政治家は何もしてくれない」――。そんな国民の不満に既存の政党は十分に耳を貸さなかった。人、モノ、サービスの自由な往来というEUの大原則を崩すわけにはいかず、移民に対してネガティブな声が出る、それ自体が「政治的に正しくない」ことだった。
既存の政治家は自分の言うことを聞いてくれない――。国民の間にアンチ政府、アンチ「エスタブリッシュメント」(政治家、政府、高級官僚、大企業、大手メディア)の感覚が募った。
UKIPは存在自体が「冗談」と言われていた
こうした感情を持つ国民(その多くが中高年で、労働者階級、グローバル化した経済に反発心を抱く人)の受け皿となったのは、かつてはその存在自体が「冗談」と言われていたUKIPだった。
なぜ「冗談」と言われていたのか。それは、移民に対してネガティブな感情を持つというのは、リベラルな思想を持つ人やエスタブリッシュメントからすれば、「多様な価値観を認める英国」から外れた行為だ。そんな思いをまっとうなものとして処理することは想定外である。また、実際にEUに加盟し続ける限り、EU移民の流入は本当には止められない。かつ、好景気が続くほど、英国が仕事や生活水準の向上を求める移民を引き寄せるというジレンマもあって、政治家にとってはEUからの人の流入はどうにもできない事柄だった。
英国のEUからの脱退を求める政党UKIPの結成は1990年代にさかのぼる。EUの創設を決めたマーストリヒト条約(1991年に協議がまとまり、92年に調印。93年発効)に反対する、「反連邦主義同盟」という形でロンドン・スクール・オブ・エコノミックスのアラン・スキッド教授が立ち上げた(1991年)。93年、名称をUKIPに改めた。
長年にわたり、UKIPのメンバーは欧州議会や地方議会では議席を得たものの、下院議員選挙では落選に次ぐ落選となる。現在の党首ファラージ氏は1997年、欧州議会選挙で当選。現在までに連続して当選し続けている。
2006年、ファラージ氏が党首となり、これまでの「EUからの脱退」というシングル・イシューでの戦いの上に、移民の数を減らす、減税など保守政党が持つような政策の実施をアピールするようになった。
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