今回の国民投票で、大きくクローズアップされたのは確かにEUからの移民流入問題だった。
とはいっても、第2次大戦後、戦争によって不足した労働力を増やすために西インド諸島などから移民を招いた歴史を持つ英国は、決して反移民感情が強い国ではない。大英帝国として世界に君臨していた過去もあり、インド系、パキスタン系、アフリカ系、アジア系など、さまざまな地域からやってきた移民1世、その子孫にあたる世代が住んでいる。見た目だけでは誰が外からやってきた人なのか、あるいは英国籍を持つ人なのかは判断しがたく、肌や目の色が違う人が生活圏にいるのはおなじみの光景だ。
移民には慣れているはずの英国だったが、ここ数年、問題視されていたのが2004年にEUに加盟した旧東欧諸国などの10カ国からの移民だ。
英国は新規加盟国から制限なしで移民を認めた
EUは域内での人、モノ、サービスの自由な行き来が原則。ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロバキアなどの10カ国が新規加入をしたとき、ほかのEU諸国のほとんどが一定の猶予期間を設け、すぐには雇用関係を結べないなどの処置を講じる一方で、英国はこの猶予期間を設けず、制限なしの流入を認めた。国際語となった英語が使える、好景気、旧東欧諸国よりは賃金が高いなどの要素が新移民にとって英国は魅力的だった。
こうして、新規加盟国からの英国にやってくる移民は年を追うごとに増えた。学校現場、医療サービス、住宅供給、役所のサービスなどに負担がかかるようになってゆく。2008年の世界金融危機以降、政府が緊縮財政策を実行する中で公的サービスの予算が大幅削減され、雇用も打撃を受けた。低い賃金でも働く新移民たちが国内の賃金水準を下げているのではないか、と言う声も出てきた。
国民投票で離脱を支持した人たちは決して移民の肌や目の色の違いに対して差別的な見方をしていたわけではない。しかし、数が問題なのである。英国民がコントロールできない形で、多くの人がやってくることが。
人口約6000万人(日本の半分)の英国には2014年時点で、300万人のEU市民が住んでいる。そのうちの200万人が2004年以降やってきた。また、2015年の純移民数(出て行った人とやってきた人の差)は約33万人。そのうちの18万人がEU市民だった。純移民数は年々、増加している。
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