アメリカで爆発的に盛り上がる「ICV」という留職
サムスンの地域専門家制度と、IBMのCSC。どちらも非常にユニークで意義深い活動だと思うが、よくよく考えてみても、IBMのやり方は本当にスマートだと思う。サムスンは社員を現地社会に送り込み、1年をかけてゼロからネットワークを構築する。それに対しIBMは、行政機関やNPOという、現地社会に強いネットワークを持つ団体に社員を派遣することで、より短期間で効率よくニーズの吸い上げを実現している。
そんなIBMのやり方を、他の企業が真似ないはずはない。ICV(International Cooperate Volunteering)と呼ばれる取り組みが、IBMのCSC開始を契機に、近年、アメリカで急成長しているのだ。ICVとは、企業に勤めるプロフェッショナル人材が新興国に一定期間入り込み、本業のスキルを生かして現地社会の課題を解決する活動。まさに僕たちが日本で「留職」と名付け広めようとしている事業だ。
調べてみて驚いたのは、アメリカでのICVの盛り上がり方だ。06年は6社が導入し全米で300人程度が派遣されていた程度だったが、08年ごろから急速に広がり、11年には21社から2000人を超える社員がICVで新興国へと赴いている。
僕も経験した日本の青年海外協力隊の年間の派遣人数は、ピークだった09年当時でも1700人程度だ。つまり、それを上回る規模の人材が、政府のODA予算を使うことなく新興国での社会課題解決に貢献していることになる。国際援助の観点でも、これはものすごいインパクトではないだろうか。
また、導入企業を見ても、ファイザー、スターバックス、HSBC、シスコなど、さまざまな業態の有名企業が名を連ねており、ICVがいかに幅広い企業の注目を集めているかが伝わってくる。
米国企業がいま求める「グローバル人材」とは
創業間もなくアメリカへと渡った僕たちは、こうしたICVの取り組みを実施する企業を訪ね、インタビューを行った。彼らに、「なぜこんなことをしているのか?」というシンプルな質問をぶつけたところ、意外な答えが返ってきた。
「グローバル人材を育てたいから」
この答えを聞いて、大いに戸惑った。僕がお話する多くの日本企業の方々が語る「グローバル人材」の要件とは、「TOEIC730点以上の人」だったからだ。でも、アメリカでは英語は母国語だ。グローバル人材をそんな風に定義するわけがない。「ではグローバル人材とは一体どんな人材か」と質問を続けたところ、とても興味深い話を聞くことができた。
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