なぜIBMはこの取り組みに「本気」なのか。狙いは3つあるという。1つ目は、新興国の現状を肌感覚で理解したリーダー層を育成すること。2つ目は、将来のリーダー層が国や事業部を超えてグローバル企業としての結びつきを強めること。そして最後は、ボランティア活動を通じて現地社会のニーズを探って新たなビジネスにつなげることだ。
驚くべきは、この3つ目の狙いが、僕たちの想像をはるかに超える結果を出している点だ。実際にどのようなことが起きているのか、事例を紹介してみたい。
本業のビジネスへと結びつくIBMの社会貢献
IBMがCSCのプロジェクトとして、ナイジェリアのクロスリバー州にボランティアを派遣したときの話だ。州の保健所ではカルテの管理体制がうまく機能しておらず、患者が何度やって来ても「どうしました?」という初診扱いで始まる状態だった。そこでIBMの社員たちは、カルテを電子化して管理を行うシステムを導入する活動を行った。1ヵ月間の活動は効果を出し、社員たちは最後に州の保健省で活動報告を行い、本国へと帰国した。
プロジェク終了後しばらくして、IBM本社にナイジェリア政府の保健省から連絡が入る。「わが州のすべての保健所に、あのカルテ電子化を導入してくれ」と。もちろん、今度は無償ではなく、有償でのビジネスとしての発注だった。社会貢献の活動が、大きなビジネス上の受注につながったのだ。
それだけではなかった。州内の多くの保健所にカルテの電子化システムが届けられた頃、その評判を聞きつけ、ナイジェリアのほかの州からもIBMに同様の発注が相次いだのだ。すると今度はそのうわさが国外にも広がり、「IBMはどうやらアフリカ社会をよく理解している企業らしい」ということで、アフリカ諸国でのブランド構築にもつながっていった。
僕がこの話をすばらしいと思うポイントは、自社製品をどうしたら使ってもらえるかという「プロダクトアウト」の発想を一切捨てている点だ。現地でいったいどのようなソリューションが求められているかをボランティアとしてゼロベースで真剣に考えることの根底には、究極の「マーケットイン」の発想がある。だからこそ本当に現地の人たちに役立つソリューションが生まれ、それが結果的にビジネスにつながるのだろう。
調査によると、CSCのプログラムに参加したIBM社員の75%以上が、「新製品・新サービスのアイデアを持って帰ることができた」と回答している。紹介した事例のように本業でのメリットに直接的に結びつけるのはそう簡単な話ではないが、単純な金銭面での援助ではなく、こうした「健全な下心」を持った社会貢献の活動だからこそ、本当の意味で継続的な貢献ができるのだと僕は考える。
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