対ロシア政策を巡ってドイツが揺れている EU団結に「亀裂」
ブレグジット(英国のEU離脱問題)や過激派組織「イスラム国」戦闘員による攻撃、くすぶり続ける難民問題など、EUが大きな脅威に直面するなかで、欧州はいったいいくつの「前線」に同時対応できるのかという疑問が、ドイツ政府やEU当局者の一部から出ている。
「人々はロシアとの対立に疲れている。彼らは緊張を求めていないし、ウクライナ側が改革を十分に進めていないと考えている」と語るのは、トランスアトランティック・アカデミー(ワシントン)のウルリッヒ・スペック上級研究員だ。
「イスラム国に対抗するには、プーチン大統領はそれほど悪くないように思える。こうした疲労感のせいで、制裁反対派が勢力を増すリスクが高まっている」と同氏は語る。ウクライナ問題をめぐりEUとは別に対ロ制裁を課している米国の当局者からも同じような意見が表明されている。
分裂
ドイツの「大連立」政権内における各党の溝は、この数週間で大きく広がっており、シュタインマイヤー外相は、ロシアに対するより融和的アプローチと段階的な制裁緩和を先頭に立って主張している。
シュタインマイヤー外相は先週末、NATOは東欧部隊の移動によってロシアを挑発するリスクを冒していると警鐘を鳴らし、周囲を驚かせた。「我々が今やってはならないのは、武力を誇示し気勢を上げて、状況を激化させることだ」と同外相は独ビルト紙に語った。
同外相の発言は2通りに解釈できる。一つは、メルケル首相演じる「悪い警官」に対して同外相が「良い警官」を演じているというもので、制裁に関するドイツの強硬なスタンスは実質的には変わらないだろう、という解釈だ。
独外務省高官は「対ロ政策に何か変化はあったか。何も変わっていないと思う」と話している。「とはいえ、制裁の期限が迫るなかで、われわれは、ロシアに働きかけるために打てる手はすべて打っているという姿勢を示さなければならない」
もう1つの解釈は、外相発言はメルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)と、外相の所属する社会民主党(SPD)との亀裂が深くなっており、来年の独総選挙が近づくにつれてその溝は広がる一方であることを示唆している、というものだ。こうした亀裂が、独政府のパートナーに不統一のシグナルを送り、EUのコンセンサスを損なうのではないかと懸念する当局者もいる。