さて、前述の4つの金言を解説しよう。
現実の相場は「売る」か「買う」かだけ
第一の点は、もうおなじみであろう。正統派経済学においては、投資は儲からないことになっている。なぜなら、効率的市場仮説を前提とする現代ファイナンスにおいては、市場における証券価格は、利用可能なすべての情報を反映しているから、どの証券も、つまり、たとえばどの株も、リスクと期待リターンの組み合わせに見合った株価がついており、どれが買いで、どれが売り、ということはないからだ。
しかし、これが現実には誤りであることは有名な事実だ。なぜなら、市場での株価は、投資家の行動によって決まる。これを経済学者は行動ファイナンスと呼んでいるが、それほど大げさなものではなく、価格は需要と供給で決まるというだけのことだ。
日経新聞の投資欄も、ブルームバーグもロイターも、そして東洋経済も、すべて金融市場のニュースは、需給の話ばかりだ。誰が買った、誰が売った、年金が買い、バフェットが買い、銀行が売った。それが市場のすべてだ。
第二の点は、この投資家の売買、つまり、投資家行動だが、これは、投資家心理に左右されるのだが、現実の相場における重要な投資家心理と、現時点における学会において興味をもたれている投資家心理とは、大きく異なる。
後者は、今のところ、厳密に立証できるものに関心が絞られているため、ミクロの個人の心理学が直結するものとなっている。投資家行動がいわゆるファンダメンタルズに基づいた投資と異なったとき、それを投資家心理で説明するのだが、それが純粋に心理から来ているのかどうか。
あるいは制度的要因からきているのか、それともファンダメンタルズの一部である、リスクによるものだが、そのリスクの認識が客観的な事実と主観的な認識とがズレていることから来ているのか。それが主観的にズレている、つまり、単に誤った認識を持っているときに、それを合理的というのか、やはり非合理的なのか。
こうした議論は、投資家のミクロの行動原理を確立するための基礎としてはいいのだが、現実の相場には役に立たない。現実に重要なのは、それが心理に基づこうか、合理的であろうがなかろうが、他の投資家が売るか買うか、それだけが重要なのだ。
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