再び「日本株バブル」は起きるか 日経平均1万円台定着の条件(3)
バブル時にもてはやされた「Qレシオ」「PSR」
東京湾の埋め立て地、江東区・豊洲。かつては工業用地が大半を占めたこの街は、再開発によって一変した。現在は、高層マンションやオフィスなどが軒を連ね、21世紀を象徴する東京の新交通システム「ゆりかもめ」が走る。
1980年代後半のバブル相場をリードしたのは「ウォーターフロント関連銘柄」。豊洲に広大な土地を保有する石川島播磨重工業(現IHI)を始め、東京ガス、日本鋼管(現JFEホールディングス)の「御三家」中心に、東京湾岸に不動産を持つ企業の「含み」が脚光を浴びた。証券マンは机に地図を広げ、「ここはどこの会社の土地なのか」などと関連株発掘にしのぎを削った。
当時もてはやされた指標の一つに「Qレシオ」がある。株価を1株当たり実質純資産で割ってはじき出す。分母に簿価ではなく、含み資産を考慮した時価を用いるのが株価純資産倍率(PBR)と異なる点だ。
ただ、土地や設備の時価を実際に調べるのは難しく、Qレシオは“詭弁”の理屈付けに使われた感がある。「含みの大きさを考慮すると、現在の株価は決して割高ではない」。当時のこうした主張は、その後のバブル崩壊に伴う株価や不動産価格下落とともに、すっかり影を潜めた。
相場上昇に勢いが付くと「怪しげな指標」(株式評論家)が持ち出され、割高と見られていた株価を正当化しようとの動きが出てくるものだ。
1990年代後半から2000年代初頭にかけての「ITバブル相場」でも、証券界の一部はこれと同じ轍を踏んだ。新たにお目見えしたのは「株価売上高倍率(PSR=株価÷1株当たり売上高)」と呼ばれる指標だった。
立ち上げてから間もない新興のIT系企業の場合、利益が計上できないケースも少なくない。赤字となれば、株価収益率(PER=株価÷1株利益)の算出は不可能になる。代わって、売り上げの多寡を基に、株価水準の妥当性を判断する物差しを広く普及させようとしたのだ。
投資理論の教科書に登場する「配当割引モデル」によると、成長株の株価は以下のように定義される。
株価=1株利益÷(金利+リスクプレミアム-成長率)
つまり、株価上昇をもたらすのは1株売上高でなく、同利益の増加だ。やがて、IT銘柄人気の離散とともにPSRの存在感も低下した。
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