傾向的な円安が始まったときに恐ろしいのは、キャピタルフライト(日本からの資金流出)が生じ、円安を増幅させることだ。同時に国債価格が暴落し、金利が高騰する。これが、過度の金融緩和がもたらす第1段階だ。この過程がさらに進めば、輸入価格の高騰により、国内でインフレが起こり、それがさらに円安を進める。これが第2段階だ。
第1段階は、イタリアやスペインなどの南欧諸国でいま起こっている現象だ。ユーロの動向やアメリカの金融政策のいかんで、現在日本に流入している資金が逆流すると、日本でも第1段階が生じうる。
なお、イタリアの場合は、ユーロという共通通貨に入っているので、資金流出の影響は緩和されている。それでも、ユーロはかなり減価した。日本は単独通貨なので、影響はもっと大きくなる。イタリアは、国債利回りの高騰だけで済んでいる(それも大きな問題だが)が、日本の場合には円安が輸入インフレをもたらして、第2段階に進む可能性がある。
金融緩和の手段として日銀引受けを行えば、ほぼ確実に第2段階まで進む。インフレ的な政策が将来取られるという予想だけで、キャピタルフライトが生じる可能性もある。
前回述べた1940年代の傾斜生産方式のときには、海外との資金移動は制限されていたので、以上で述べたメカニズムは働かなかった。それでも消費者物価指数が3年間で6倍になったのだ。いま類似の政策を行えば、キャピタルフライトによって、40年代のそれより激しいインフレが生じるだろう。
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