細谷雄一「日本が担う世界史的な役割」 『国際秩序』を書いた、細谷雄一慶応大学教授に聞く

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──ヨーロッパの動きを、きちんと把握していなかったようですね。

もう一つ例を挙げたい。41年8月にチャーチル英首相とルーズベルト米大統領が首脳会談を行って、大西洋憲章を発表した。その前年にドイツは怒濤の勢いでフランスを占領し、ヨーロッパ全体が支配されようとしていた。ところが、戦争の潮流は大きく変わり、この41年夏の時点で、英米両国は戦後秩序を議論している。戦争が終わる見通しが出てきたのだ。ドイツは対ソ戦を開始し、東部にも戦線を広げた。それは本来は避けるべき二正面作戦であった。英米ソの3大国が協力することで、戦勝の可能性が浮かび上がり、そのような潮流の変化がこの大西洋上での会談の背景にあった。

ところが、日本の軍部の認識は40年のドイツの怒濤の勝利で時計の針が止まっていた。41年夏の時点で、徐々にヒトラーの戦勝の見通しが消えつつあったにもかかわらず、日本はドイツが勝つと確信し、参戦へと動く。「面」で国際政治が見えていない。日本外交が戦後行ってきたことも、基本的に点と点を結んだ「線」に基づくものばかりだ。

──国際秩序は刻々と動く……。

国際秩序は自明のものとして最初からあるのではなくて、人間の手によって創られたものだ。その過程で、各国の国益が複雑に組み込まれる。国際秩序といっても、ある国にとって利益になるものも、不利益になるものもある。だとすれば、いかにして日本が外交によって利益となる国際秩序を創れるか。同時にいかにして不利益な国際秩序の形成を避けるか。これがつねに重要になる。

──現時点でも秩序変化は進行中ですね。

たとえば、日本では反米と反中を同時に論じる人がいる。日本が米国と中国に同時に敵対したらどうなるか。場合によっては、米中が提携して、日本に圧力をかけるかもしれない。尖閣諸島の問題で、中国政府は、尖閣は中国のものであると主張し、日本の領土であることを否定している。もしもこの問題で、米中が提携して日本の不利益となるような圧力をかけてきたら、それは日本にとっての悪夢だ。

米国と中国が共同で日本に圧力をかけることができるような秩序が創られれば、それは中国にとって利益となるだろう。尖閣の問題をめぐって、中国の楊潔チ外務相は、日本の主張は戦後の国際秩序に対する明白な挑戦であると言う。つまり、連合国が提携してドイツや日本などの「ファシスト勢力」を抑えて戦後秩序を構築したことを想起させて、侵略国日本というイメージを米国人に浸透させようとしているのだ。

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