「貝」マークを外したGS 昭和シェル石油の決断
冒頭の藤沢の店舗がある敷地では、かつて同社の特約店がスタンドを運営していた。面積はわずか200坪強。これでは、近隣にある300坪を超すような大型店に販売量で太刀打ちするのは到底難しい。
しかし、ガソリンもコンビニの品ぞろえの一つにすぎないのであれば、「たとえガソリン販売だけでは店にとって採算が合わなくても、出店可能なはず」と平野取締役。直球を捨て、変化球勝負で再生を目指す。
徹底した低コスト運営 既存特約店に援用も
村山康夫社長の口癖の一つが、「消費者が必要としていないところにコストを割くな」。ローソンとの一体型店舗と並んで、もう一つ、昭和シェルのローコスト運営を象徴するのが、06年から展開するショッピングセンター(SC)併設型給油所「ファンタジスタ」(07年末10店)だ。
落花生の産地として知られる千葉県八街(やちまた)市。食品スーパーやホームセンターなどで構成される郊外のSC敷地内に「ファンタジスタ」は併設されている。
この「ファンタジスタ」にも「貝」マークの看板はない。こちらもやはりセルフ式で、売っているのはガソリン、灯油、軽油。洗車サービスは行わない。従業員が待機する施設は小さく、車検などの商談をするセールスルームはもちろんない。給油所の屋根の面積もよそに比べて小さい。給油機を載せた「アイランド」と呼ばれる土台は塗装なし。コスト削減の跡が至る所にうかがえる。
コストを抑制すれば当然、ガソリンの低価格販売も可能になる。昨秋の事業概況説明会で打ち出された「県民所得がさほど高くない地域で展開するときは、高級志向を打ち出してもうまくいかない。むしろ価格戦略に徹底すべき」という方針に沿っている。ただ、「貝」マークを掲げた近隣店舗との消耗戦を避けるため、運営は周辺地域でスタンド経営を手掛ける系列特約店に委ねた。
10年までにローソンとの一体型店舗と「ファンタジスタ」合計で100店出店、というのが昭和シェルの目標。同時に、ローコスト運営のノウハウや新たなビジネスモデルの提案を通じて、既存の特約店の経営下支えも図っていく。リテール強化といっても、「ガムシャラにシェアを奪っていくというわけではない」と平野取締役は強調する。
商業施設の併設店舗で、ガソリンはつねに脇役。認知度の高い「貝」マークを引っ込めれば集客に悪影響を及ぼ
すのでは、という内なる懸念は当然ある。そこであえて主役の座を明け渡すことは、昭和シェルにとって“苦渋の決断”だったであろう。
国内のガソリンスタンドはすでに飽和状態にある。これは商業施設とて同じ。従来の売り方ではもはや消費者に受け入れられず、より買いやすい場へと改造するなら、既成概念は放棄せざるをえない。“儲からない”業界の閉塞感を打破する、文字どおり“ファンタジスタ”としての期待が込められた実験なのである。
(松崎泰弘 撮影:今 祥雄 =週刊東洋経済)
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