「貝」マークを外したGS 昭和シェル石油の決断
スタンドの1リットル当たりマージンは、今や10円を下回るとも指摘される。販売量が増えていれば薄利多売で儲けることもできるが、マーケット縮小の中では苦しくなる一方。4月1日に勃発したガソリン値下げ戦争で、約25円の揮発油税を負担して値下げに踏み切った一部スタンドからは「売れば売るほど赤字」とのぼやきが聞こえてくる。
それでも、昭和シェルはリテール市場深耕の姿勢を崩さない。キーワードは「発想の転換」だ。
ガソリンはあくまでコンビニ商品の一つ
同社のコンビニ一体型店舗の特徴は、「従来はスタンドが主であり、自己主張するような店づくりだったが、ガソリンはあくまでもコンビニの一商品という位置づけ」(平野敦彦・同社取締役販売部長)にそもそもの発想を変えた点。スタンドに比べ個人客の来店頻度が圧倒的に高いコンビニが主役で、スタンドはその販売を後押しする脇役に徹する。
確かに、藤沢の一体型店舗にはおなじみの「貝」マークの看板が見当たらない。給油機まで来て、初めてどこの製品かがわかるだけ。コンビニで買い物を済ませたクルマが給油へ向かい、バックせずにスタンドを離れることができるなど、レイアウトもコンビニ優先になっている。
実は石油業界にとって、他業態とスタンドの連携は、これまで失敗の歴史だった。給油以外の収益拡大を狙って、コンビニ、レストラン、美容院などさまざまなパートナーと組んではみたものの、“ついで買い”を誘発するには至らず、「成功事例はほとんどない」(日本エネルギー経済研究所・石油情報センターの前川忠研究理事)のが実情だった。
その一例が、旧共同石油(現ジャパンエナジー)の子会社によるコンビニ併設店の展開。同社は「am/pm」の運営会社を立ち上げ、1990年代中心に併設店を40前後まで増やした。が、結局、焼き肉チェーン「牛角」を展開するレインズインターナショナルに04年、運営会社を売却。「試行錯誤したがうまくいかなかったという
のが結論」(ジャパンエナジー総務人事部)だ。
欧米の先例では、スタンドの多機能化は成功を収めた。が、「ドイツには(小売店の営業時間を制限する)閉店法が存在しており、スタンド併設の小売店はその対象外だったことが幸いした」(前出・前川氏)。一方の日本では、コーヒーショップ「ドトール」の併設店を展開するエクソンモービルなどを除けば、よい話はほとんど聞こえてこない。各社ともコラボ路線の拡大には概して慎重になっている。
この逆を行こうというのが、昭和シェルなのである。従来の事例は、「初めにスタンドありき」の発想を脱せなかったのが敗因、という考え方だ。そしてこの「発想の転換」には、徹底したコストの見直しという、もう一本の軸が貫かれている。
通常、スタンドを中心に販売戦略を練ると、顧客囲い込みに向けさまざまなサービス付加へと向かいがちだ。結果として、そのコストを賄うために、油量販売に過大なノルマが課されることになる。
これに対して、同社が描く併設店のビジネスモデルは、まず、コンビニと給油機から上がる粗利を想定。それを基にスタンドのサービス内容や外装を決めていく。そうすれば、その店舗に見合ったローコスト運営が十分可能というわけだ。