候補者が資金をつぎ込む先としては、各地のテレビ局が最も有効なのだ。政治広告支出は2016年に入って、2008年全体の4倍弱に当たる50億ドルを突破した。このうち4分の3強に当たる約40億ドルが、各地の放送局やケーブルテレビでの政治宣伝に充てられている。
各地の放送局を所有するメディア企業にとって、政治広告から経済的な恩恵を受けるのと、ニュース業務に投資することは別物だ。かくして、放送電波は政治広告で埋まる。今秋に大統領選の戦場となる数十の州で、放送ニュース部門は、候補者自身についてもその政治主張についても、評価する余裕を欠くことになる。
放送局の買収が進んだことから、2014年には米国各地にある1400の放送局の3分の1が大手5社の傘下に入った。5社中で最大のシンクレア・ブロードキャスト・グループは現在、81地域の168局を握り、米国の人口のほぼ40%にリーチする。
一握りのメディア企業に放送局が集積したことは、国全体のジャーナリズムに影響を及ぼした。統合の結果、実際にニュースを収集し、報道するテレビ局は少なくなっている。ジャーナリズムとメディアに関するシンクタンクのピュー研究所によると、独自のニュース番組を放送する地元テレビ局の数は、2005年以来で8%減った。
国にとっては良くなくても...
ラジオTVデジタルニュース協会によると、地元ニュースを提供する米国のテレビ局の4分の1は、自前でニュース番組を制作せず、シェアしてもらっている。2014年のデラウェア大学による分析によれば、調査対象となったテレビ市場のうち4つで、「ニュース共有」放送局が流した番組のほぼ100%は、同じ映像とスクリプトを使用していた。
より厄介なことに、同大学の研究は、地元放送局が選挙キャンペーン広告から棚ぼたの収入を得るため、候補者の主張に関する報道を聖域にしてしまう可能性を示唆している。
たとえば、2012年大統領選の際にデンバーの地元放送局は、候補の政治行動委員会 (寄付者の身元を隠す、表向きは独立した資金調達グループ) による広告を5000回近く放送することで650万ドルの収入を得た。デンバーのこの放送局は、広告の主張の正確性を調べるのに、総計でわずか10分45秒しかかけなかった。関連ニュース1分につき162分の広告、という比率が、自ずから事態を明らかにしている。
活発な政治報道は、有権者が問題を理解して自身の選択を評価できるため民主主義に必要不可欠である。しかし、米国のメディア業界は今年、大統領選の報道をてこ入れするよりも利益を積み重ねることに、さらに傾いているようだ。「これは国にとって良いことではないかもしれない」と、米国最大の放送ネットワークCBSのレスリー・ムーンブスCEO(最高経営責任者)は1か月前に語った。「しかし、CBSにとっては、ものすごく良いことなのだ」。
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