瀧本哲史「リーダーがいなければ自分がなれ」 瀧本哲史のリーダー論(上)

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そもそも、イノベーションは多産多死なので、多くは失敗するが、成功する人も出てくる。仮に文部科学省に50億円の予算があるとする。そのとき、50億円を一つのプロジェクトに注ぎ込むのは、すでに成功したものをさらに大きくするやり方だ。今の日本に必要なのは、次のネタを探すことだから、むしろ50億円を5,000万円ずつ100人に配ったほうがいい。

実は、企業が投資をする際にも、3つの種類がある。

一つ目は、ベンチャーキャピタル型。これはリスクの高いプロジェクトに薄く広く投資するやり方だ。2つ目が、大企業のように、事業の集中と選択を大胆に行う型。そして三つ目が、ヘッジファンドのように資本集約的にタイミングだけで勝負するやり方だ。

この3種類には、まったく違う投資判断が求められるので、これをごっちゃにすると致命的な失敗につながる。

たとえば、液晶のビジネスは、ヘッジファンド型のゲームに近くなってきた。それなのに、シャープはそうした投資の経験がなかったので、新しいゲームに適応できず、大企業型の投資をやり続けてしまった。そもそも、シャープは「目の付け所がシャープ」な会社であり、ベンチャーキャピタル型の投資に強い会社だったのだ。

雑誌ビジネスのあるべき姿

リーダーという切り口でいうと、1番目のベンチャーキャピタルに近いような投資のパターン、リーダーの出方が非常に大事になっている。しかし、それをみんなやりたがらない。だから僕は、ベンチャーキャピタルの投資家と同じように、リスクの高いことをやっている人たちに投資をするビジネスをやっている。

こうした投資は、ある程度失敗が避けられない。ただ、最初から失敗することが確実なことをやるわけではないので、100の案件のうち1件くらいは当たる。そういう多産多死の投資の仕方を、実践している日本企業はほとんどない。

たとえば、雑誌ビジネスでも同じことが言える。

雑誌の企画は、すでにヒットしているものをやっては絶対駄目だ。それなのに、みな売り上げデータを見て、「あの企画が売れているからうちもやろう」と考えて、他社と同じ企画をぶつけることが多い。でも、そのやり方をしていると、みなと同じになってしまうので、逆に当たらない。むしろ、多産多死を覚悟で、当たるかわからない企画をつくっていかないと未来はない。

今の出版社は、雇用システムが硬直的なため、「人がいるからやむをえなく雑誌を作る」という側面が強い。しかし、効率的に新しいものを生むためには、個人の編集長に権限を与え、その編集長の元に編集者見習いをつけ、個々の編集者は契約社員に近い形態で雇い、結果次第で待遇が変わるという仕組みにしないといけない。一流編集者に独立の流れが出てきたのも、この文脈で理解できる。

※続きは11月26日(月)に掲載します

(撮影:梅谷秀司)

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