熊本地震、「災害廃棄物」処理という重い課題 業界の異端児「くませい」が奮闘している

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こうしたごみの収集運搬の他に、同社のもう一つの事業の柱は「食品リサイクル」だ。1997年に生ごみの高速発酵処理機を導入したのを皮切りに、生ごみの大規模処理を目指した研究開発に着手。2002年には西区沖新町に独自の堆肥化施設「バイオプラザおきしん」を完成させた。生ごみを屋内の「クローズド式」施設で一貫処理。臭気や汚水を出さず、ペレット状の有機肥料「グリーンサプリ」に変える。品質を徐々に改良し、地元の農家だけでなく中国をはじめとした海外にも輸出するようになった。

2007年にはこの施設に注目した名古屋市の声掛けもあり、同市港区に「バイオプラザなごや」を建設。処理能力を熊本の倍の日量215トン(現在はさらに1.5倍の日量326トン)に増やし、名古屋市内のスーパーや飲食店の生ごみを積極的に受け入れ始めた。翌年からは市の学校給食残さの一部から製造した堆肥を市内の畑にまいて野菜をつくり、再び消費する「おかえりやさい」プロジェクトに参画。名古屋の食品や廃棄物関係者に「くませい」の名が知られるきっかけとなった。

当然、名古屋では新参者。明るい見学室を設けて自治体、企業関係者から町内会までの視察をどんどん受け入れながら、メディアにも積極的に露出する村平社長は、まさしく業界のイメージを覆す「異端児」に映る。

村平社長は「火事場だから頑張るのではなく、日常が一番大事」と考えている(筆者撮影)

今年、名古屋を含む愛知県では廃棄食品の横流し事件が発覚したが、同社は地元の業界団体の動きとは別に、作業工程を画像に残して取引先に示すなどの再発防止策をアピールした。「うちは価格競争をせずに取引先の信頼を得てきた。逆に差別化のチャンスだ」(村平社長)。

「今回、熊本では50年の歴史で築いた取引先との信頼関係が一層強まった。現場の若い社員には毎日の作業を文書化して共有させているので、いざというときもコミュニケーションでカバーし合えている」。そういう村平社長は自らを「普段から『熊本のごみをなくす』『名古屋から生ごみをなくす』と言い続けているバカ」と表現する。

村平社長いわく、「火事場の何とかと言うが、火事場だから頑張るのではなく、日常が一番大事」だそうだ。

首都直下地震では1.1億トンもの災害廃棄物

熊本地震による災害廃棄物の発生量は現時点で不明だが、阪神・淡路大震災では1500万トン、東日本大震災では3100万トンが発生した。これが首都直下地震では1.1億トン、南海トラフの巨大地震では3.2億トンになると見込まれる。施設の耐震化を進めることはもちろん、現場では圧倒的なマンパワーの確保が求められる。一方で、東日本でのがれきの広域処理には強引な計画や予算上の不透明さがたびたび指摘されており、巨額のカネが動く今後の災害廃棄物対策には透明性の確保も欠かせない。

なかなか見えにくい廃棄物処理の世界だが、こういうときにこそ目を凝らして見ることも必要だろう。

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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