「ほぼ日」は売れ筋を”考えない” 楠木建が糸井重里に聞く(上)

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楠木:昔からの愛用者ですか。

糸井:ええ。ある友達が「だまされたと思ってしてみて」とくれた腹巻きがきっかけでした。僕はお腹を壊しがちなところがあったんですが、着けてみたら本当に調子がいい。だけど、らくだ色の冴えない感じですから、ボロボロになっても、新しい物を買う気にならなかったんです。

楠木:やっぱり格好悪い?

糸井:はい。だったら、格好悪くない腹巻きを作ればいいと。それで「腹巻きを作ったら、どう思う?」と、ほぼ日に書いた。

それも大々的にマーケティングするのではなく、僕の普通の文章の中に書きました。笑われてもいいやと思ったんです。でも、「いいですよね。子どもの頃、してました」なんて意見が来た。いいと言う人が5人いたらやることにしていたんですが、実際そうなった。

腹巻き一つ3400円。それでも売れるワケは?

楠木:商品開発前にお客さんの反応を聞くのは、よくあることですか?

糸井:よくあります。でも、こういう商品を作ってほしいとか、この商品をこう改良してほしいというご意見は、なるべく聞かないようにしています(笑)。

楠木:それは面白い。しかし、ロングラン商品ともなると、実際に買ったお客さんの要望が、自然と集まってくると思います。

糸井:もちろん、お客さんのご意見は聞きますが、モニターとして意識しすぎると、「あぶはち取らず」になってしまう。だから、意識しすぎないようにしています。アンケートも当てにしすぎるといけません。どうしても「考えるために考えた」アイデアが入りますから。

楠木:会議もそうですよね。

糸井:「何か言ってごらん」と促されて言うことと、本当に感じていることとは、別なんです。見極めが難しいけれど、本当に感じていることでないと意味がない。

篠田:腹巻きだと、薄いものが欲しいというリクエストがお客様からたくさん寄せられました。でも、それで即採用、とはなりません。

まずサンプルを作り、スタッフが数カ月着用し、温かさや着用感を試しました。そのうえで実際に売るときは「薄手のタイプだと目立ちませんが、長期間使っているとへたりが目立つことがあります」などときちんと説明して売るようにしています。

糸井:スタッフには、「自分たちが、まず消費者であり、第一のお客さんなんだ」と繰り返し言っています。

楠木:ほぼ日の商品は価格競争にはなっていません。どの商品もそれなりの値段がしますね。

篠田:「ほぼ日ハラマキ」が3400円。一番の主力商品である「ほぼ日手帳」は、普及版で3500円します。決して安くはない。

楠木:それでも売れるのは、なぜだと分析されますか?

糸井:腹巻きがまさにそうなんですが、ものすごく簡単に言うと、いいに決まっているからです。いま世間で「ラジオ体操をしよう」というメッセージの本が40万部を超える人気になっています。ラジオ体操はいいに決まっている。だけど、なぜしないのか。腹巻きと同じで、「格好悪かった」からです。だったら、格好悪くないものを作ればいい。

※対談の続きは11月16日(金)に公開します 

(週刊東洋経済 2012年9月22日号)

楠木 建 一橋ビジネススクール特任教授

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くすのき けん / Ken Kusunoki

1964年東京都生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より一橋ビジネススクール教授。2023年から現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)のほか、近著に『経営読書記録(表・裏)』(日本経済新聞出版)などがある。

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