ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件 楠木建著 たっぷり、丁寧に未来を創り出す戦略論

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ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件 楠木建著 ~たっぷり、丁寧に未来を創り出す戦略論

 

評者 小川進 神戸大学大学院経営学研究科教授


この人はいずれ世の中をリードする。若くしてそう予感させる逸材が時に存在する。著者は経営学の世界でそういう存在である。本書では、その才気あふれる知性が20年以上の歳月をかけ結晶化させた戦略論を、ソフトな語り口で平易に読者に紹介してくれている。

 

「静止画から動画へ」という著者の言葉にあるように、本書の特徴は企業の戦略を「動くもの」として見ようとするところにある。心電図の波形のように、動きそのものが一定のパターンを見せることがある。シアトル・マリナーズのイチローは通常の視力ではなく動くものを見つめる動体視力が優れていると言われている。豪速球やくせのある変化球でも正確に目でとらえられることがイチローの類まれなる安打製造の鍵になっているという。本書で著者が提示している枠組みは、まさにそうした動体視力のような「生き物としての戦略」をとらえるための概念装置である。

著者が提唱する戦略ストーリーは「強さ」「太さ」「長さ」の3要素からなる。企業の戦略を「因果の起こりやすさ(強さ)」「波及効果の多さ(太さ)」「フィードバックループの多さと因果連鎖の長さ(長さ)」という視点から整理する。そして、強くて太くて長い話であるほど「優れたストーリー」だと主張する。

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