養子、里子でなく「施設頼み」日本は変わるか 育ての親を見つけにくい
「児相の多くは成功体験に乏しく、経験の少なさが活用を阻む一因となっている」
現状では民間団体を通じて養子を迎える人には、児相を通じた際に受けられる経済的支援がないことも問題だという。
「恒久的な家庭の保障には養子縁組の活用が望ましい。官民で共通の支援をすべきだし、互いの強みを生かし合うべきだ」
すでに動き出した自治体もある。三重県や長野県、静岡市など20自治体は4月、13の民間団体と「子どもの家庭養育推進官民協議会」を立ち上げた。官民で里親や養子縁組制度の普及に取り組むという。昨年度に日本財団などが開いた赤ちゃん縁組の講習会には、埼玉県や大阪府など約25の自治体の担当者や児相職員が参加している。
多様な家族の一つにすぎない
一方で、「行政だけで支える時代ではない。チームで育てる意識が行政や社会にもっと醸成されないと」と言うのは、今春まで東京都の江東児童相談所所長を務めた明星大学特任准教授の奥田晃久さんだ。里親と子が閉じられた関係で行き詰まると、元の家庭に戻れない里子は再び施設に入ったり、養育者の間を転々としたりしてしまう。
「大切なのは開かれた養育。里親は悩んだ時、自分を追い詰めず、仲間や相談員に助けを求めてほしい。障がいがあっても、つらい体験をしていても、子どもは温かい家庭を望んでいる」
冒頭の石井家は長男を迎える際、「堂々としていよう」と、友人や親しい近所の人にまず伝えた。向かいのおばあさんは衣装ケースいっぱいのおもちゃを持ってきてくれた。学校や地域の役員も積極的に引き受けた。
「地域に踏み出すと、僕らは多様な家族の一つにすぎない。少しの手助けで救える子がいることが見えてきた」(敦さん)
石井家は、4人の息子の子育てだけでなく、里親として、家庭を必要とする子たちの面倒も見てきた。育児放棄にあった3歳の女の子を迎えた時は、誕生日も祝ってもらったことのない彼女のためにパーティーを開き、七五三の記念写真を撮った。女の子はきれいな着物を見て目を輝かせ、生みの母が「見たことがない」と言う笑顔を写真に残した。佐智子さんは言う。
「家族って血のつながりより、毎日一緒にご飯を食べたり、何かを発見しあったりする中で築かれる関係性だと思う。親は人生のある時期を子どもと伴走し、彼らが生きるのに必要な自分への肯定感や善悪の価値を育てられればミッション完了かな」
※AERA 2016年5月16日
(朝日新聞記者・後藤絵里)
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