養子、里子でなく「施設頼み」日本は変わるか

育ての親を見つけにくい

特別養子縁組は生みの親が育てられない子どもと血縁関係のない夫婦が、行政や民間の仲介で出会い裁判で法的に親子となる制度だ。海外では家庭に恵まれない子の養護政策として一般的だが、日本では相続などを目的とした大人のための養子縁組のほうが圧倒的に多い。日本に保護を必要とする子は4万人以上いるが、特別養子縁組の成立は年に500件程度。人口が日本の約半分の英国の10分の1だ。

法的な親子にならずに家庭で育てる里親制度もある。生みの親が病気や貧困で一時的に育てられない、6歳未満が対象の特別養子縁組ができないなどの場合、子どもに家庭で育つ機会を与える手段だが、全国の里親委託率は平均15%程度。自治体で取り組みの差は大きく、委託率が5割近い県や市もあれば、数%のところもある。

その結果、日本で生みの親と暮らせない子の8割以上は乳児院や児童養護施設で暮らしている。英国で8割近くが里親に委託されるのとは対照的だ。

幼い時期の「家庭」体験の欠如について、海外のさまざまな研究で負の影響が指摘されてきた。最近ではルーマニアの独裁政権崩壊後、孤児院を解体し、里親制度を整えるのと並行して、養育環境が子どもに及ぼす影響を調べた研究「ブカレスト早期介入計画(BEIP)」がある。施設で育つ集団と里親に移行した集団とで、長期間調べた結果、言語や知能、アタッチメント(愛着)の形成で、里親の元で育った子は施設に残った子より発達の度合いが高かった。特に2歳までに里親に託された子は、それ以降に託された子よりも発達の数値が有意に高く、安定した愛着が築かれていたという。

赤ちゃんは泣くことで不快を訴え、表情や身ぶりでふれあいを求め、相手の語りかけをまねて言葉を覚える。研究によれば、人間の脳には発達の初期に、経験から強い影響を受ける「感受期」がある。養育者との親密なやりとりを通じた経験が、発達に重要な役割を果たすという。

日本の施設は小規模化を進めており、海外の大規模施設と単純比較はできないが、研究から得られる示唆は少なくない。研究メンバーで精神科医のチャールズ・ジーナ博士は指摘する。

「乳幼児が少なくとも1人の養育者を選び、安心や保護を求める性向を愛着と呼ぶ。施設の交代勤務では特定の養育者と一貫した接点を持てず、愛着が形成されにくい。愛着が安定すると、子ども自身が精神的な苦境に直面するリスクも減る」

養子縁組の支援 官民で格差

今回の児童福祉法改正案は、乳幼児期に家庭で育つことの意義を認め、家庭養育優先の原則を盛り込んだ。施行後には特別養子縁組の年齢制限や親権のあり方の議論も始まる見通しだ。

ただ、実際に政策を担うのは自治体であり、児童相談所(児相)だ。彼らの「本気度」が政策の成否を左右する。15年度に厚生労働省の委託で養子縁組に関する調査研究をまとめた日本女子大学の林浩康教授(社会福祉学)は、養子縁組が前提の里親委託は全国の児相で取り組みに大きな差があると指摘する。

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