カルピスバターを「幻」にする日本の酪農行政 国家管理下にある原料、働かない競争原理
色にも特徴があり、北海道産のバターに比べるとかなり白い。それは、カルピスバターが群馬と岡山の工場で生産されていて、その周辺の乳牛の生乳を使っているから。北海道の乳牛が主に青草を食べているのに対し、これらの乳牛は干し草の他に、とうもろこしや麦、大豆などをブレンドした飼料を食べている。要はエサの違いが製品の色の違いになっているというのが会社側の説明だ。
有塩タイプと無塩タイプがあり、現在店頭では1個450gが1550円前後(消費税込み)で売られている。無塩タイプの方が有塩タイプよりも40~50円高い。50g単位のソフトタイプも4種類あり、こちらは1個350円だが、置いている店は少ない。最近、都内と神奈川県内の明治屋や成城石井、ナショナル麻布など高級食材を扱う19店を回ったが、4種類すべて置いているのは1店もなく、1種類も置いていないのが12店あった。このため、ネット通販業者が4種類を1パックにして2000円以上の値段で販売している例もある。
筆者がこのバターの存在を始めて知ったのは25年前。料理好きの友人がわが家へ来て料理を作ってくれるという。食材を買うため近所のスーパーへ行ったところ、彼女がこのバターを手に取った。大手メーカー製の225gの普及品が300円未満だった当時、このバターはたしか1200円くらい。ぎょっとして異議を唱えると、彼女曰く「(普及品は)獣くさいから、これじゃなきゃダメ」だという。実際、フライパンの上で溶かしてみてわかった。香りが全然違う。普及品は獣くさいという意味も理解できた。
業務用は逼迫感が続いたまま
このバターのことを久々に思い出したのは今から3年前。仕事場の近くにオープンしたカフェの看板商品が、「カルピスバター使用」をうたった自家製スイーツだったのだ。だが1年ほどすると、店長が「問屋が個数制限を始めたので、思うように買えなくなった」と言い出した。翌年からは2年連続で前年実績の3割減の数量しか売ってもらえなくなり、不要な食材との抱き合わせ販売にも応じざるをえなくなった。
業務用の単価は小売りよりかなり安いのが一般的だ。この店長は1個あたり740円前後で購入していたが、規定の割り当て数量を超えたらこの問屋からは買えない。ネット通販で購入すると1000円以上するので、一定量を超えると採算割れしてしまう。昨年12月上旬、突然小売りの店舗にカルピスバターが出現するまでは、「ネット通販はどのサイトも常に欠品で、たまに入荷しても瞬く間に売り切れてしまっていた」という。
国内のバター需要はおおむね年間7万~8万トン。完全な国家管理品で、輸入も農水省からの指示で独立行政法人農畜産業振興機構(略称alic)が事実上独占的に行っている。“事実上”というのは、低い関税率が適用される輸入枠は、国が必要量だと判断した量に限られ、この枠は基本的にalicが使い切ってしまう。それを超える量を民間業者が独自に輸入しようとすれば、360%もの関税がかかる仕組みになっているからだ。
昨年6月から11月にかけ、1万トンの緊急輸入が行われ、輸入バターがまず大口の業務用に供給され、徐々に行き渡ると、それまで業務用に消費されて小売りに回らなかった国産の普及品が、押し出される形で小売の店頭に出回り始めた。それが昨年12月上旬だ。
同時期からカルピスバターも通販サイトで出回る数量が増え出したが、価格は1000円から2000円以上するものまでかなりバラつきがある。業務用なのに小売りよりも高い価格設定の商品もある。前出のカフェの店長は、「ほかのバターはずいぶん値段が下がったが、カルピスバターの逼迫感は相変わらず。ネットの値段はむしろ上がった気がする。採算割れするので高いものは買えない」という。
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