カルピスバターを「幻」にする日本の酪農行政 国家管理下にある原料、働かない競争原理
そもそも各地で生産された生乳は、足りている都道府県から足りない都道府県に融通されるシステムが確立している。出す側にとっては「移出」、受け入れる側にとっては「移入」で、生産量に移入と移出を加減したものが、その都道府県内に工場を持つ乳業メーカーに卸せる「処理量」となる。
飲用最優先、バター向けは後回し
処理可能な生乳は4つの用途に配分されるのだが、飲用牛乳用途への配分が最優先。その次が生クリーム用で、バターや脱脂粉乳などの生産に使う加工原料向けは後回し。全国で生産される生乳の5割強が飲用牛乳向けだが、飲用牛乳向け以外の用途の大半は北海道が供給している。このため、北海道以外の都府県の大半は、処理量の9割以上を飲用牛乳向けに配分している。
カルピスの工場がある群馬、岡山2県の2012年の生乳生産量は、2県合計で35.3万トン。移出入後の処理量は31.9万トンで、加工原料用途に処理されたのはわずか1万トン。それが、2013年には8551トン、2015年は6659トンと、3年間で34%も減っている。その主たる原因は、主力の群馬工場がある群馬県の生乳の加工原料向け処理量が、3年間でほぼ半減したことにある。この間、日本全体の生乳生産量は3.2%しか減っていない。群馬県の生乳生産量は実は0.9%増え、移出入後の処理量も1.7%増えているのだが、飲用牛乳向けの処理が7%増えている。処理量の増加分をはるかに上回る生乳が飲用に回され、増産分は神奈川をはじめとする関東の大都市圏に流れている。
もともと加工原料用途に回されている生乳が極端に少ないので、飲用用途が7%増えただけで、これだけの影響が出るのだ。不合理極まりない酪農行政が変わる気配はなく、緊急輸入分が一巡すれば、再びバター不足はやってくる。カルピスバターも再び「幻」となる日がやってくるに違いない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら