カルピスバターを「幻」にする日本の酪農行政 国家管理下にある原料、働かない競争原理

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カルピスバターはカルピス社が需要家に直接販売しているものはごく一部で、明治屋や成城石井などは、三菱食品や日本アクセスなど有力1次卸から仕入れている。街中のカフェなどは2次卸経由になる。前出のカフェ店長は「以前から一部の業者が買いだめをして枯渇感をあおり、値段をつり上げている印象がある」とも言っていた。

カルピスはかつて東証一部に上場していたが、1991年に資本提携した味の素が完全子会社化し、2007年9月に上場廃止になった。現在は、2012年10月に味の素から全株式を取得した、アサヒグループホールディングスの連結子会社になっている。

同じ原料なのに用途で異なる卸価格

カルピスバターのレシピ本『バターマニア』が出版されたのは、アサヒグループ傘下に入って1年後の2013年10月。明らかに小売り向けへの普及拡大を狙った内容だが、この本が出版される頃には必要な量の供給すらできなくなり、普及拡大どころではなくなった。

「原料の生乳生産が2011年の東日本大震災の影響で大幅に減少したが2012年には2010年レベルまで回復。2013年も前半は順調に推移していたため、出版を決めた。だが、同年後半から減産に転じ、以後回復していない」(アサヒグループHD広報)ためだ。

カルピスを30本作れる生乳から、バターは1個しか作れない。カルピスの需要に見合う量の生乳は何とか確保出来ているようだが、それではカルピスバターの需要に見合う量にはほど遠いということらしい。なぜ契約農家を確保するなどして、必要量の原料を確保しないのか言いたくなるところだが、生乳が完全な国家管理下に置かれている現状では、購入単価にも購入数量にも競争原理は働かない。まして専属契約農家の確保などありえない。

生乳は全国各地の酪農団体が地元の酪農家から買い付けて乳業メーカーに卸す。乳業メーカーが酪農家と直接交渉して買い付ける道は事実上ない。卸価格も4種類の用途(飲用牛乳向け、クリーム向け、加工原料向け、チーズ向け)ごとに決まっている。同じ生乳なのに、何に使うかで価格が異なるという摩訶不思議な世界がまかり通っている。

各用途に使う量も酪農団体と乳業メーカーの交渉で決まる。交渉の主導権を握っているのは酪農団体側。仕入れた1000トンの生乳をどの用途に何トン使うか、決める自由は乳業メーカーにはない。仕入れ後、合意した配分と異なる使い方をすることもできない。というのも、チーズ向けと、バターや脱脂粉乳を作る加工原料向けは、卸売り価格が安く、このうち加工原料向けには国から補助金が下りる。農水省は、補助金の計算のために、生乳をどの用途にどれだけ使い、生産したのかを乳業メーカーに届け出させている。酪農団体側が届け出た用途配分と異なれば、勝手に用途配分を変えたことがバレてしまうのだ。

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