「コンテンツではなく娯楽」 新世代リーダー 川村元気 映画プロデューサー(下)
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——これから川村さんが挑戦したいことは何ですか。表現軸を広げる、新しいテーマに挑む、海外へ進出する、などいろいろな方向性があると思いますが。
おっしゃったこと全部です。
テーマとしては、次は暴力を映画で描きたい。僕は震災を直接的に映画で描こうとは思っていません。ただ、地震や津波はすごく理不尽な暴力だと感じたんです。誰に怒るわけにもいかない。人間が抗えない力、暴力みたいなものにどう立ち向かうのかというテーマに、すごく興味があります。
誰しもが、震災を体験して、津波をTVで見て、余震も体験したことで、「明日、目が覚めたら瓦礫の下で死んでいるかもしれない」と、少し想像したと思うんですよ。いつ死んでもおかしくないという状況を、皆が共有してしまった。だから、僕は震災前と後では全然違うと思っています。
「おカネとは何か」を表現したい
今回、小説を書いたのも、震災というのがやっぱり大きい。
小説の中で、主人公は「明日死ぬ」と告げられますが、同じことが誰にでも起こりうる。小説に出てくる悪魔のセリフにもあるように、「すべての人間にとって寿命は未知」です。今日、帰り道で交通事故に遭って死ぬかもしれないし、大地震が起きて死ぬかもしれない。
だから、「自分ははたして本当に大事なものや人を大切にしてきたんだろうか」と問い直すのは、すごく今のムードに合うと思ったんです。
そして今、僕がいちばん怯えているのは理不尽な暴力。それはひょっとしたら地震かもしれないし、理由がわからない殺人事件かもしれない。突然家に誰かがやってきて、バサッとやられたっておかしくないわけです。
そういう可能性がある世界に、平気で生きていることを、皆わかっているんじゃないかと思うんです。だからこそ、理不尽な暴力というテーマを映画でやってみたい。
暴力は、相当筆力がないと文章で表現するのは難しい。痛みとか、人が人を殴るとか、人が人を殺すといった表現は、映画のほうが得意としています。
もうひとつ興味があるのは、おカネです。「おカネとは何か」を物語で表現したい。