「コンテンツではなく娯楽」 新世代リーダー 川村元気 映画プロデューサー(下)
——海外進出について興味はありますか?
映画も小説も、必要以上に海外を意識して作っても、いいものにはなりにくい。自分たちが素直に面白いと思えたものや、日本人にしか見えない景色や感覚に向き合って作れば、自然と海外に繋がっていくはずです。
たとえば今の日本を覆う、カネや暴力に対する不安は、ロンドンでも、アフリカでも、ニューヨークでも、みんなが共有している。
今後デジタル化が進むことで、日本の作品を海外へ流通させやすくなると思います。実写映画の場合、東洋人が出ていることと、日本語というハンデはありますが、『リング』のように、ストーリーを売るビジネスの可能性はどんどん広がっていくはずです。
アニメ、マンガ、絵本、キャラクターは、より海外に出やすいと思います。絵やキャラクターでは、日本の力はやっぱり強い。
ジョブズと同じことをエンタメで
——『おおかみこどもの雨と雪』なんて海外でも受けそうですよね。
そうですね。アニメーションは今後も継続的にやっていきたいと思っていますし、最近は絵本も始めました。今年10月から、アートディレクターの佐野研二郎さんと一緒に、『Casa BRUTUS』誌で「Tinny ふうせんいぬティニー」という絵本の連載をはじめました。佐野さんは、「au by LISMO!」「TOYOTA Reborn」などを手がけた方なのですが、物語と絵で同じ世界を描いていくという作業が本当に楽しくて、毎回発見だらけです。
——映画、小説、アニメ、絵本と表現手段はさまざまですけど、そこに一貫するテーマというのがあるのでしょうか。
僕がやりたいのは、みんながうっすらと感じているけど、表面化していないことを表現すること。東洋経済風にいうと(笑)、潜在意識の顕在化です。たぶんスティーブ・ジョブスがやってきたこともそれと同じ。彼は潜在的に人間の生理にそぐわなかったことを、なるべくスムーズにしてきた。僕はそれをエンターテインメントの世界でやりたい。
——これから日本や、日本の映画界は変わると思いますか?
大きくは変わらないと思います。もう日本だけで、あらゆることが済んでしまうからでしょう。でも、それを後ろ向きに考えるのは一方的すぎる気もします。日本だけで済むということは、究極の楽園だともいえる。