僕が「為末大学」を作ったワケ 新世代リーダー 為末大 元プロ陸上選手
ただ、為末自身が明言するように、為末大学は「実験」でもある。「大学」という名称にしたのは、為末自身も学ぶ場だから。いろいろなことが展開しやすいよう、テーマに沿って「~学部」と名付ける仕組みになっている。
為末大学の具体的な「実験」テーマの一つは、実業団に属するような一流スポーツ選手が引退後に進むセカンドキャリアだ。その後方支援につながるような枠組みへの転用を探るというのである。
学校のセカンドキャリア問題
「日本の一流スポーツ選手の多くは現役時代に社会から隔絶され、付き合うのもスポーツ関係者だけ。それが30歳近くで引退し、いきなり社会に放り出されてしまう。企業も引退した選手には見向きもしない」。
これは、現役時代から感じていた問題意識でもある。こうした引退選手の選択肢の一つがスポーツクラブなどの指導者への道だが、「人をどうかき集めたらいいか。場所をどう確保したらいいかなどの問題が出てくる。為末大学がそれを後ろ側で支える教育系のプラットフォームになれば、選手ももっと起業しやすくなる」。
「発想に壁がなく、豊かにいろいろなことを考えていくタイプ」。周囲は為末をこう評する。為末自身も「いろんなものが不思議に、面白く思えるタイプ。みんなが気づいていなかったところで、『そうくるか』ということに興味がある」と分析する。
たとえば、小学生時代、為末は自分の住んでいる街と近隣の街とでは、中古ゲームソフトの売買価格の差があることに気づき、転売をして小遣い稼ぎをしていた。
「盲点に勝機を見いだす」という志向は、今も変わらない。ひそかに注目しているテーマに、スポーツ選手とはまったく違う世界のセカンドキャリア問題がある。少子化を背景に今後、増加し続ける廃校を有効活用すること、つまり学校のセカンドキャリアである。
「人が住んでいるところのど真ん中に置かれ、プール、体育館とグラウンドを備える施設は世界中でもあまりない。運動施設や運動のできる宿泊施設ととらえると、何らかの可能性があるかもしれない」。
実際、為末は08年3月に廃校となった箱根の旧仙石原中学校跡地を、宿泊施設に転用しようとする友人のビジネスへの参画を決めている。
「日本ではこの5年ぐらいで2000校ぐらいの廃校が出る。中には海に面していたり、山際だったり、駅から近かったりと、ホテルと考えるとありえないようなロケーションがあったりする。そこをうまく活用できたらと」。
為末は少子高齢化によって起きる社会の変化など、今後、30年で起こる大きな波に勝機があると考えている。