僕が「為末大学」を作ったワケ 新世代リーダー 為末大 元プロ陸上選手
為末はその可能性の一つとして「経営」というキーワードを口にする。「社会に価値を提供する。インパクトを与えるには組織を大きくするのがいちばん」。
為末は経営のリーダーとなる道を探っている。ただし、「集団を率いた経験はない」。まずは取っ掛かりが必要だ。その布石が、引退後に初めて公に企画したプロジェクトの為末大学なのである。
日本人が苦手な「議論」を鍛える
かねてから温めていたアイデアのコンセプトは「議論できる人間を育てたい」。欧州のレースを転戦したり、米国を本拠地に活動したりといった豊富な海外経験を持つ為末から見ると「日本人は議論で物事の問題点をあぶり出すことが弱い。それを鍛える場所にしたい」。
スポーツ選手として長く活動してきたが、教育の分野には以前から関心があった。中でも「コミュニケーションにはすごく関心がある」。自身は世の中への情報発信にSNS(交流サイト)のツイッター(Twitter)を特に活用している。
最近はあるテーマについてまとめてツイートする(つぶやく)のが定番となり、ビジネスパーソンだけでなく子どもを持つ主婦など幅広い層とコミュニケーションを取っている。今ではツイッターのフォロワーが12万件を超え、この夏に発売された著書『走る哲学』(扶桑社)の刊行にもつながった。
この経験が、為末大学を立ち上げる礎の一つとなった。
「ツイッターだと辛辣な議論が交わされるのに、リアルに出てくるとみんな表面上で話をする。その間を取れるものがないかと。ぶっちゃけ系のコミュニケーションがあってもいいだろう」。
ただし、目指すのは欧米型ではない。たとえば議論がAとBという2つの意見に割れたとする。「米国だとAとBのお互いが矛盾点を突き合って最終的に結果を出すが、日本にはなかなか向かない。『AはA』『BはB』としてお互いを検証し合って答えに近づいていけたらいい」。
こうしたコンセプトに沿って展開してみたのが、第1回の為末大学だった。
第2回は「スポーツとアート」のトークイベントとして約70人を集めて開催。次は「かけっこ」がテーマになりそうだ。「今後も自分が勉強する場、人と触れ合う場所として継続していきたい」と為末は言う。