分散型時代のメディア戦略はどうあるべきか 有料化&リアル戦略の正しい描き方とは?
そして、理念のひとつにあるのは「遅いより速いほうがいい」というメッセージ。まさに高速化を象徴する言葉です。本来、検索サービスでの広告モデルで拡大しているGoogleであれば、滞在時間を伸ばしたほうが売上につながるはず。にもかかわらず、ユーザーの滞在時間をできるだけ短くしようと技術開発に取り組むのは、ビジネスよりもユーザーを見ている姿勢を感じることができます。
記事の表示速度は広告のあり方にも影響
Facebookは、URLの読み込みに8秒かかっているというデータを発表していますが、Googleはまた違った調査を出しています。たとえば、コンテンツ表示に3秒以上かかると、大多数のユーザーが閲覧をやめてしまうのだそうです。
そこでAMPでは、従来よりも表示速度を4倍速くするため、データ量を10分の1にすることで、高速化を実現しました。TwitterやPinterest(ピンタレスト)のようなプラットフォームも参加し、日本でもすでに10を超えるメディアが対応しています。
ここでは高速化以外のことについて多くは触れませんが、AMPは、アドブロックが普及しだした世界の状況を受け止めたうえで、新しい広告のあり方を探る一手でもあるといえます。そのため、Googleのビジネスモデルにとっても大きな意味をもちます。発信者も受信者も含めたメディア環境が激変するなか、よりよい広告の姿がどのようなものなのか、この取り組みが糸口を見つけてくれることでしょう。
分散型ではありませんが、昨夏オランダを取材した際、記事を1本1本購入できるコンテンツプラットフォーム「ブレンドル(Blendle)」の国際担当、ミカエル・ビンニング氏は、「ジャーナリズム業界にはユーザー体験を考えたサービスがない」と語っていました。オランダとドイツの主要メディアすべてが、有料記事を配信しているこのプラットフォームでは、ユーザー目線であらゆる設計を考え抜いています。
これまでは各メディアにユーザー情報やクレジットカード番号を登録していたのが、「ブレンドル」に登録すれば主要メディアの記事をすべて読むことができ、かつ、ワンクリックで記事を購入することができるのです。同様に、記事に不満があれば返金もできます。彼は取材のなかで「摩擦のない(frictionless)」サービスの必要性を説いていましたが、分散型における「高速化」もまたその視点とつながってくるものだと思います。
「ブレンドル」はちょうど英語圏での展開をスタートさせました。現在、「ブレンドル」に投資している「ニューヨーク・タイムズ」はもちろんのこと、「ウォールストリート・ジャーナル」や「フィナンシャル・タイムズ」などの大手メディアが契約し、このプラットフォーム上で記事を販売しています。
米国市場において「ニュース記事をiTunes化(iTunes for News)」や「ジャーナリズムのiTunes化(iTunes for Journalism)」のコンセプトが受容されるのか。オランダとドイツで65万人以上のユーザーを獲得した「ブレンドル」は、分散型に有料購読というまた違った風を吹かせてくれそうです。