「テレビがネット記事にカネを払う」噂の真実 番宣のために「ステマ」をやっているのか?

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私自身、ときどきテレビ局員から、「いろいろな番組から『広告記事を書いて』って言われるでしょ?」と聞かれますが、実際は月に1本あるかどうかであり、しかもほぼ受けていません。聖人君子ではないので、「もともと好きな番組から、広告費までもらって書けたら最高」という気持ちもありますが、そもそも業界内にそんな依頼はほとんどないのです。

しかし、それでも「ステマ」「番宣乙!」と言われがちなのはなぜなのでしょうか。

テレビ局とネット媒体の協業関係

「ステマ」「番宣乙!」と言われる最大の理由は、ネット記事の大半がほめ称えるものだから。それらを見た読み手側の印象は、「ほめすぎ」。そして、「これはあやしい」という疑いに変わっていくのです。

前述したテレビ局の許可・協力を得て書く記事は、広報や番組スタッフとの定期的なやり取りがあり、言わば「持ちつ持たれつ」の協業関係。「宣伝してほしい」テレビ局と、「中身のある記事を作りたい」ネット媒体側の利害が一致しているため、円満な関係を保つ上で好意的な内容になりがちなのです。この協業関係に違和感を抱いた読み手が、「ステマ」「番宣乙!」と声をあげているのは間違いないでしょう。

一方、執筆者が自由に書く記事も、ほめ称える内容が多いのはなぜでしょうか。その理由は、「テレビやタレントが好きだから」「書くために普通の人より真剣に見ているから」という単純なもので、それ以上でも以下でもありません。

だからこそ、細部のこだわりや現場での努力に気づきやすく、ついほめたくなるのです。親交のあるテレビライターたちも、「お金はネット媒体から通常の原稿料をもらえれば十分で、広告料を上乗せされて制約を受けるよりも自由に書きたい」と口をそろえて言っています。

また、ここ数年、スポーツ新聞が母体のネット媒体や、新興のエンタメ系ネット媒体が、数分で書けるようなシンプルな礼賛記事を乱発しているのも、「ほめすぎ」「これはあやしい」という印象を強めているといえるでしょう。ただ、それらの狙いはシンプル。「テレビ番組名やタレント名は、それだけで強力な誘引力を持つ固有名詞だから、内容はほめ称えた無難なものでいいから、できるだけ多くの記事をアップしてPVを稼ぎたい」と思っているだけなのです。

逆に、「けなすことが前提の記事ばかり」というネット媒体もよく見かけますが、その狙いは、「人の不幸は蜜の味」と、ついのぞきたくなる人間心理を突いたPV稼ぎであり、「いい番組かどうか」の判断材料にはなりません。すでに読み手はそんなあざとい狙いを見抜きつつあるので、それらのネット媒体は、「目先のPVこそ稼げても、媒体そのものの評価は上がらない」というジレンマを抱えています。

「ステマ」「番宣乙!」と言われてしまうのは、ネット記事が「ほめるか、けなすか」、両極端になりがちだからであり、読み手をミスリードしてしまっていることに他なりません。しかし、『東洋経済オンライン』のように、「ほめるか、けなすか」の両極端ではなく、「本質を突いた記事を掲載しよう」というネット媒体も少しずつ増えはじめています。

「ステマ」「番宣乙!」と言われてしまう、もう1つの理由は、タイムリー性の高さです。

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