「テレビがネット記事にカネを払う」噂の真実 番宣のために「ステマ」をやっているのか?

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私のような小さな存在が相手にされないのは当然かもしれませんが、そのコラムを掲載したネット媒体に対しても同じ。内容の真偽や質など、膨大かつ玉石混交のネット媒体は、「相手にしきれない」「まともにやり合う必要がない」。あるいは「まあ、これくらいはよしとするか」というのが現時点での本音なのです。

それを裏づけるのが、タレントの写真をめぐる扱い。雑誌では一部週刊誌などを除いて、芸能事務所の許諾なしにタレントの写真を掲載することはありません。しかし、ネット媒体は大手ですらタレントの写真を芸能事務所の許諾なしに掲載することが当たり前。言わば、「きりがないから、ひどいもの以外はスルー」という“消極的な許諾”で成立しているのであって、見方を変えれば「まだネット媒体が軽視されている」ということなのかもしれません。

「テレビ番組を書き起こしただけ」の記事などの“石”が多く、読み手からも、芸能事務所からも軽視されがちというのが、ネット媒体の現状。今後、“玉”と“石”が整理され、極めて影響力の大きいネット媒体が誕生したとき、芸能事務所から「提灯記事の依頼をする」というケースが増えるのではないでしょうか。

ちなみに、撮影や会見などの現場で芸能事務所の人から「このタレントをぜひ取材してください」「いろいろ書いてあげてください」と勧められることもありますが、よく言われる「ゴリ押し」ではなく、その程度に過ぎません。「ゴリ押し」と言われそうなタレントほど、ネット媒体の書き手にとって「オイシイ存在」というだけなのです。

みずからの選択肢を狭める「ステマ」の声

ここまで書いてきたように、テレビ関連の記事における「ステマ」「番宣乙!」は、そのほとんどが読み手の誤解と、それが広まってしまったというだけ。当初は無責任な1つの書き込みに過ぎなくても、それに続く人が増えることで、常識のようになってしまうのがネットの怖いところです。

特に、華やかな世界に映りがちな芸能界に対する風当たりは強く、なかでも“強者”のイメージが強いテレビ局や大手芸能事務所は、何かにつけて叩かれやすいのは仕方がないのかもしれません。

ただ、私が気になっているのは、ここ数年の視聴者が、「面白い、つまらない」のジャッジが早く、しかも「面白いものは正義、つまらないものは悪」と極端な見方をしていること。そして、自分が「悪」とみなした番組の魅力を伝えようとしたネット記事に、「ステマ」「番宣乙!」と書き込むか、「画面に映るものが全て」と聞く耳を持たない人が増えました。

ネットの発達で、「見たいものを見たいときに見る」という思考が定着しましたが、それによって、自分で決めた枠にフィットしないものは「ステマ」「番宣乙!」と決めつける人が増えのかもしれません。よく言われる「コンプライアンスや自主規制で表現に制約が加わって、面白い番組が減った」などの一面は間違いなくあるでしょう。しかしその一方で、「視聴者が番組の多様性や自らの選択肢を狭めている」という側面もある気がします。

昨年、Yahoo!が「広告記事に『PR』『広告』などの明記をせずに掲載するメディアとの契約を解除した」ことを明かしたように、ネット業界は「ネット記事の信頼性を高めるために、ノンクレジットの広告記事をなくしていこう」という方向に動いています。

それでもまだまだノンクレジットの広告記事が存在しているのが事実ですが、テレビ番組関連のものはあまり見かけません。つまり、テレビ局は「広告とバレてしまう」、ネット媒体は「それを隠して掲載するのはリスクが大きすぎる」ため、「ステマ」「番宣乙!」は、ほとんどないと言えるのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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