熊本地震の支援に台湾がいち早く動いた事情 「震災外交」深まる日台、苦々しさ抱える中国

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こうした台湾の素早い支援に対して、日本ではネット上で「台湾は友達」「感動した」など肯定的コメントが相次いでいる。

この一連の動きは、今年2月に台湾・台南で起きた地震によるビル倒壊などの被害に対して、日本側が官民をあげ、台湾の人々が驚くほど手厚い支援を行ったことと、当然無関係ではない。

しかし、この日本側の行動の背後には、2011年の東日本大震災の際、台湾の民衆が小額の街頭募金を中心に200億円という巨額の寄付を集め、日本を助けてくれた経緯があったことは言うまでもない。

さらにさかのぼると、1999年の台湾大地震発生時には、日本が救援隊を世界に先駆けて派遣し、救援活動で大いに活躍したという経緯があった。つまり、恩返しに対する恩返しがさらに恩返しになるという、言ってみれば「恩返しの連鎖」としか表現できない”震災外交”が、日台間に生まれているのだ。

支援をめぐっても勃発する「一つの中国」問題

中国と台湾との間でも、震災における「友好」関係が生じかけた時期はあった。対中関係改善を掲げた馬英九政権は、2008年に四川で大地震が起きた際、およそ1億円の義援金を拠出し、救助隊も派遣。台湾の企業家からの巨額の寄付も相次ぎ、民間での募金活動もそれなりに活発だった。

しかし中国と台湾は、どちらも相手の主権を認めていないという複雑な関係にあり、必ずしもしっくりといかない部分がある。実際、1999年に日本が台湾の大地震に義援金を送ろうとした時、中国から「台湾は中国の一部なので、支援は我々を先に通すべきだ」と文句がつき、台湾側の強い反発を招いたことがあった。

この「一つの中国」の問題は、日本でも波紋を呼んだことがある。東日本大震災発生時、台湾のほうが中国より手厚い支援をしてくれたにもかかわらず、当時の民主党・野田政権は震災1年の追悼式典で、外交における中台の扱いの慣例から、台湾を指名献花から外し、中国だけに指名献花をしてもらったことがあった。

これは日本世論の厳しい批判を浴び、翌年は台湾を指名献花に招いたが、今度は中国側が出席をボイコットする事態につながってしまった。

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