不動産屋の「イチオシ物件」に隠された真実 仲介会社が躍起になる「両手取引」の実態

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この「囲い込み」問題には、とうとう国も動き出しました。国土交通省からの要請に基づき「レインズ」が今年1月から新たな機能を導入したのです。

「健全な市場」整備へ行政も動き出した

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具体的には、先ほどの「専任媒介契約」および「専属専任媒介契約」によって登録された物件に関するレインズ登録情報について、「売主」が直接確認できるようになりました。

登録情報について、①公開中、②書面による購入申し込みあり、③売主都合で一時紹介停止中――といった3つの項目が追加され、依頼した「仲介会社」の都合でほかの「仲介会社」への紹介を拒むことのないようにチェックできることとなりました。

逆に言えば、それほど深刻な問題であったといえるでしょう。

こうした「両手取引」は法律上、問題のない正当な取引の仕組みです。たとえば「売主」の側に立ってみると、「買主」を一生懸命探してくれる「仲介会社」にこそ売却を依頼したいのも当然であり、それに対して手数料を支払うことは、自然のことです。特に、個人の物件所有者が売却を依頼する場合には、多くの購入希望者を持っているような「仲介会社」はとても魅力です。

つまり、「両手取引」は正しい情報開示の下ではなんら問題はないのです。

米国のように、「売主」の側に立つエージェントと、「買主」側に立つエージェントが明確に分かれている市場においても、「両手取引」は存在します。しかし、この場合にはその旨が取引の当事者に情報開示されています。そういう意味で、日本の不動産情報はまだ透明性が十分でなく、改善すべき課題が残っているといえるでしょう。


 

高橋 正典 不動産コンサルタント

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たかはし まさのり

株式会社バイヤーズスタイル代表取締役。宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、国土交通大臣登録証明事業不動産コンサルティング技能登録者。

1970年東京生まれ。従来の日本の不動産業界の慣習を変え、より顧客に寄り添う「エージェント(代理人)ビジネス」にシフトさせるべく、株式会社バイヤーズスタイルを設立。顧客の物件の資産価値向上のため、業界で初めてすべての取扱い物件に「住宅履歴書」を導入。一般的に売りづらいとされる築年数の古い中古住宅の売買に精通し、顧客から厚い信頼を得ている。

さらに、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し、流通させるため「売却の窓口R」を運営し、その加盟店は全国に広がっている。不動産流通の現場を最も知る不動産コンサルタントとして、各種メディア・媒体等においての寄稿やコラム等多数。一方で、一般社団法人相続支援士協会の理事を務めており、相続問題を始めとする家族の諸問題に造詣が深い。自身も30歳で二世帯住宅を建て、その後父親を看取った経験から、後悔のない親とのかかわり方を提唱している。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)などがある。

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