世界の英雄は、みんな「痛風」に苦しめられた

予備軍は1000万人、打倒「王の病気」奮闘記

さて、その痛みの正体とは。食物に含まれていたり、体内で作られるプリン体(プリン骨格を持つ物質)が、核酸となってエネルギーに変換された後、用済みになった老廃物は「尿酸」と呼ばれ、腎臓から排泄される。尿酸が作られすぎたり、うまく排泄でなかったりで、血中の割合が7mg/dLを超えると、今は高尿酸血症と診断される。

尿酸値が高いだけでは無症状だが、結晶となった尿酸が、何らかの刺激で関節の中に落ちると厄介だ。異物と認識した白血球に攻撃されて炎症が起こる。これが、痛風発作だ。

さらに、尿酸は石をつくることもあり、尿路結石は痛風に劣らない激痛として知られる。痛風の歴史は長いが、尿路結石の中から尿酸が見つかったのは18世紀、痛風患者では尿酸値が高いという関係が明らかになったのは、19世紀半ばだ。

激しい運動は尿酸の過剰生産を引き起こす

プリン体は食品に含まれる旨味成分の一種だが、体内の尿酸のうち食物由来は20%ほどで、食物と無関係に合成される分が8割以上を占める。痛風は「贅沢病」とも言われ、明治以前の日本で稀な病だったが、戦後は食生活の欧米化に伴って急増している。加えて、富国強兵、さらには戦後の高度成長期の生活環境の変化も、患者の増を後押ししているかもしれない。

痛風のリスクは、肥満やメタボリックシンドロームとも重なるが、英雄たちが皆太っていたとは言いがたい。それより、エネルギッシュで活動的、仕事も遊びもバリバリこなし、食べるのも早い……という人物像が浮かび上がってくる。

なお、運動は生活習慣病対策には必須だが、こと痛風に関して言えば、激しい無酸素運動(短距離走・筋トレなど)は、尿酸の過剰産生につながり、リスクを高めてしまうため御法度だ。これにならえば、やはり活動的な人はそれだけ多くのエネルギーを消費し、尿酸生成量が増えるといったことも考えられる。

また、高尿酸血症の人は多忙で競争心に富むといった、「タイプA行動パターン」と呼ばれる行動様式の人が多いという調査結果もある。

痛風に対して薬を用いたことを、ヒポクラテスは記している。それは世界最古の医薬品で、なんと今でも痛風発作予防に用いられている「コルヒチン」だ。イヌサフランの球根や種子の成分から得られるコルヒチンは、黒海沿岸のコルキス(Colchis)地方を原産とし、古代エジプトでは下剤として用いられていたとされる。下痢はしても痛風への効果が勝ると評価され、今なお現役の薬として世界で使われている。

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